「Loser's Parade」

for さえない日々

『ホニャララのツアー』@渋谷AX

地に足が着いていない演奏でした。


渋谷AX。改めて、デカい。2007年末あたりに所属レーベルであるカクバリズムが5周年を迎えたということで開催されたイベントは、このライブハウスで行われた。そのときは他にキセルやらイルリメやらサ上とロ吉(新アルバム最高ってことを書けず、ほったらかしのままだ)やら二階堂和美やらユアソンやらと共に出てきたサケロックの面々は、このライブ会場の広さを持て余しているかのように見えていた。そんな持て余していたかのように見えていたサケがここでワンマンを行うと知ったときは、それはそれはビックリした。「え、大丈夫?」「客、入るの?」それらの心配は、まったくの老婆心だった。蓋を開けてみたらチケットは売り切れ。そしてライブはいつもと変わらず、あの調子でこの大舞台を自分のフィールドに転化していたと思う。それは、2年ぶりに行われた全国ツアーの総決算であり、その成果をいかんなく発揮した結果だったのかもしれません。
「こんなに大きな会場だから、赤坂ブリッツのときのように映像ネタが仕込まれてくるんじゃなかろうか」と予想していたのは的中。前回同様、ステージにスクリーンがセットされ、「開演までしばらくお待ちください」というメッセージと共に、『ラディカル・ホリデー』で登場したエセ細野(はっぴいえんどHOSONO HOUSE時代の細野さんのコスプレをしたスタッフ)がカラオケボックスで細野さんの曲(『北京ダック』とか)をメロディを知らないながらぼそぼそ歌う姿が延々と流れる。ああ、本当に星野リーダーは山岸サンタ氏と出会えてよかったねぇ、と思える瞬間です。あとはPVやらDVDのCM(売り切れ間近!のコメント追加)が流され、再びエセ細野へ。ここですでにサケライブ初心者の心は掴んでたと思います。
そして開演。その前に映像で生活純子さんがいろいろとご挨拶。今回の全国ツアーのダイジェスト映像が流れましたが、ライブシーンはほぼ皆無。この映像は(もちろんライブ映像含め)いずれ商品化されるのでとやかくは言いませんが、これだけ言わせてください。「誰か角張社長を助けてあげて!」社員募集中だからニートの人は募集したらいいと思います。「こんなに壮絶だったツアーですから、メンバーが減ってるかもしれません。というか、今からSAKEROCKが出てくるとは限りません。…アシッドマンが出てくるかもしれません。」“アシッドマン”という絶妙なチョイスがステキでした。そんなグダグダ映像が終わりを迎えると、『平凡な人生』と共にスクリーンが開き、ステージ後方に大きなSAKEROCK幕(大原大次郎さんのサイトで見れます)を従え、ようやくメンバーが登場。久しぶりに生演奏を聴いた、浜野謙太珠玉の一曲。サントラ曲なので短めで終わると、そこからなだれ込むように新たな浜野珠玉の名曲『菌』で爆発。会場も一気に盛り上がりました。自分の曲なのにミスが多いなぁ…と気にはしつつもやっぱり盛り上がる。そして更に流れるように『モー』。そして流れるようにここで野村卓史が静かに鍵盤の前に座る。今までは星野リーダーのギターだけが奏でていたひねくれたリフが、田中名人のベースもそのリフを弾いてる。あー、またアレンジが変わってるよー。これがライブに通いたくなってしまう一因。ちょっと目を離すと、飽きっぽい彼らはすぐにアレンジをちょこちょこと変えてしまうのです。更にこれでもかと続けざまに『慰安旅行』。そういえば野村さんが入って演奏する『慰安旅行』って初めて見た。SAKEROCK結成後初めてできたオリジナル曲を、オリジナルメンバーも交えて披露されるのは、実は結構スゴいことなのじゃないかと思う。あと今回『スーダラ節』の一節を挟まなかった。そしてそして続けざまに『ホニャララ』。ここまで一切のMCなし。この『ホニャララ』という曲なのですが、曲途中で一旦静かになって、また盛り上がっていくという展開があり、ここでテンポがバカみたいに速くなっていくというオモシロアレンジがライブでは披露されるのですが、今回のライブでは、ファストコアか!ってくらいに超高速。メロディー担当のトロンボーンが全然吹けないくらいに早くてバカみたいでした。多分ツアーを回っているうちにどんどん面白がって早くしていったんじゃないでしょうか。笑いながらそういうことを企んでいるメンバーの姿が容易に想像できます。
ここでようやくMCが入る…と同時に特殊効果のキャノン砲が突如ドカーーーン!!!と放たれた。…びっくりしたー。しばらく心臓ドキドキ言ってましたよ。「一度やってみたくて」と小悪魔笑顔を振りまく星野リーダー。なんたるAXの無駄遣い。MCとかあったけど、忘れた。クールダウンの後、『GREEN LAND』『ちかく』『選手』と比較的聞かせる曲を演奏。『ちかく』はそれにしてもいい曲だ。エンディングが「パシンッ」とドラムで終わるのも好き。そのドラムで終わった後、続けざまにドラムロールをして始まったのは『穴を掘る』。この曲もCD収録からずいぶんとアレンジがなされ続けている。2年前の全国ツアーから恒例だったアウトロでの「やっぱ好きやねん」もなくなってすっきりした印象。『最北端』からはマリンバ星野にジョブチェンジ。『テキカス!』ではその演奏能力を遺憾なく発揮される。続く『千のナイフ妖怪道中記』はついに星野マリンバはグダグダになってしまって、演奏後に「すいませんでした!」との一幕も。そしてここで静かに後ろに掲げられていた大幕が上がり、弦楽器のお二人(今回はバイオリン岡村美央さんとチェロは古川淑恵さんでした)が登場…と同時に再度キャノン砲炸裂。全くもってタイミングの意味がわかりません。そして『会社員』に突入。ここからの“+弦楽器”は素晴らしく、『餞』『老夫婦』『今の私』『におい』『灰空』と、あっという間に過ぎていきました。とくに『灰空』は壮大すぎてスゴいことに。「今年はリリースはないけど、いろいろオモシロい事を考えてます!」という言葉と共に、「ホニャララ」のラストも飾った『エブリデイ・モーニン』。この曲、初めて生で聴きました。タイトルどおり、夜明けを想起させるようなすがすがしさ。なんらかの余韻を残してライブは終了しました。
と、こんな余韻を残されては欲求不満だ!とばかりに1700人のアンコールの手拍子。思ったより早くアンコールに答えて出てきたメンバーですが…浜野さんがいない。あれ?と思ってみるとステージ上部に違和感。…は、浜野隊長が…宙吊りになってやってきた…。まるでピーターパンのように、タッキーの舞台かのように。まさか初めてみるワイヤーアクションがSAKEROCKの舞台で、その人が浜野謙太だなんて思ってもみなかった。とんだワイヤー童貞喪失だ。インカムをつけて舞台を文字通り右往左往するその姿は、まるで操り人形。そうか、これは「ハマケンはSAKEROCKにとって操り人形です!」というメタファーなのか!?とその光景を見て思ってみた。いや、嘘。書いてるたった今思いついた。その宙吊り状態から繰り広げられる「対決」は、アクションに気を取られて、どんなワードが飛び交っていたのか、全然記憶にない。まぁ多分大したことは言っていなかったと思う。「あ、そういやこれ、演奏はどうすんだ?イントロの間に装置を外すのって間に合うのか?」と思った瞬間に伊藤名人がイントロを叩く。その瞬間にワイヤーは浜野の立ち位置まで戻るものの、完全に地上に降り立つわけでもなく、地上30cmあたりで静止。そしてなんと、そのままトロンボーン演奏を始めてしまった。こ、これは、まさに“地に足が着いていない”演奏!そうか、これは「私たち、こんな大舞台で地に足が着いてませーん」というメタファーか!あ、すいません、これも書いてる今、思いつきました。所々邪念が混じってすいません。しかし、足の踏ん張りが利かない状態で管楽器を演奏する浜野さんって、実は結構スゴいのではないか?見た目には全く伝わってきませんでしたが。そしてそんな状態で静かなところも吹いてしまうから、観客は爆笑せずにはいられない。すごいなー、こんなにマジメに演奏してるのに、客は笑ってるって。客どころかその他のメンバーも笑ってたけど。演奏後には実物の生活純子さんが登場し、3本目のキャノン砲を発射。そしてメンバー紹介をしてアンコールは終了しました。そんなものを見せられて逃げられてたまるものか!とばかりにダブルアンコールの要求。再び壇上に上がったメンバーは『インストバンド』を披露し、ようやく幕を下ろしたのでした。
いやはや、なんかいろんなことがあのキャノン砲やワイヤーアクションでバカらしくなった。大掛かりな仕掛けはお腹にもたれるので、久々に小さいところで彼らを見たいと思いました。ちなみに、終演後、ポルノ鈴木+ルパン小島のファミ通WAVE DVDコンビを見かけ、「おお!!」とテンションが上がったのですが、多分彼らを知る人は他にはいなかったのかもしれません。なんか噂ではもっと著名人が来てたみたいなのですが、見かけなかった。オレの有名人察知レーダーはなんでこんなにマイナーな人たちしか察知できないんだ!と嘆きながら帰路に着きました。おしまい。