「Loser's Parade」

for さえない日々

はえぎわ「○○トアル風景」@下北沢ザ・スズナリ

初はえぎわ、そして初スズナリ。
第23回 はえぎわ公演 ○○トアル風景

天井に雲が吊ってあるだけで、あとは3方向の青っぽい壁と扉があるだけのシンプルな舞台。開幕して女性と男性が舞台に入ってくる。と、思ったら女性がおもむろにチョークで壁に丸を描く。あ!単なる壁だと思っていたら、壁も、そして床も全て黒板だ!女性はチョークで描いた丸に手を伸ばし、そこにボールを取り出す仕草をし、おもむろに男性に向かって投げつける。それをキャッチする男性、それをすかさず投げ返す男性…って、これってドッジボール?と思って見ているとステージ上に続々と人が集まりだし、その中の一人が壁にバスケットゴールを描くと、自然に競技がバスケットボールに。反対側の壁に誰かがサッカーゴールを描いたらサッカーへ。床に網らしきものを描いたらセパタクロー、そしてバレーボールへ。こうして見えないボールを軸に野球やゴルフなどにどんどん変化していき、誰かが壁に「MUSIC」と描くと音楽が流れ始め、総勢13名の出演者が「旅立ちの日に*1」を歌い出し、壁や床に様々な言葉、イラストを書き殴る。そして、物語が始まる。このオープニングでいきなり噛まされた。様々な言葉やイラストは、適当に書いた装飾ではなく、全てが場面の小道具であったり、心情を表しているものであったりと、重要な意味を持っていた。


チョークでリアルタイムに描かれる背景や小道具、複数の役者が同じ役を演じていること、演劇だからこそ表現できる演劇。演劇を好きになって日が浅いために、こういった表現を理解できるのに時間がかかってしまうのだけど、理解した途端に「おお!」と驚くと同時に魅せられる。これが舞台の魅力なのか、と遅まきながら発見する。

男と女の人生を切り取った物語は、最初こそ「出会い」「同棲」などと明るいものだったけど、徐々に「倦怠」「事故」「不信」などが訪れついに「別れ」が。更に「社会情勢」「派遣切り」「夢の諦め」「両親の離婚」「葬式」「介護」などなど、次々と襲いかかる男性。片や女性には「穴に落ちる」という、具体的な出来事ではなく抽象的な出来事が襲いかかる。また、こうした出来事達に対して象徴的なキャラクターも登場したりと、これだけ書くととても悲壮な物語だと思われるかもしれないけど、随所に笑いもある。特に最後あたりで壁の文字を組み合わせてできる放送禁止用語を叫びまくるシーンは、場面自体は悲しいのに笑うしかなかった。


どんどん展開が進む上に抽象的なシーンも入ってくるためついて行くのに必死だったけど、のちのちに思い返して「あー、あれはあーゆーことか!」などといろいろ納得。また、様々な人生の出来事について「自分だったらこんなことが起きたら果たしてどうするのだろう」と考えてみたり。至極簡単に言うと「男女の人生について」の物語なのだったけど、終盤のシーンはどういう解釈で受け止めればいいのか、しばらく見た人同士で話し合いたい気分になりました。

*1:最近の卒業式の定番曲だそうだが、30オーバーの自分はCMで聞いたことがある程度。