「Loser's Parade」

for さえない日々

共感百景@草月ホール(後篇)

前回の続き。

第3ステージではケンタロウの格好をしたRG(しかしすでにモノマネはしていない)と清水、そして初登場の西加奈子が登場。さて、この西加奈子という人物、読書をしない自分は「あ、せきしろさんと一緒に『ダイオウイカは知らないでしょう』ってタイトルの短歌本(星野源も登場シーンあり)を出してた人だ」という認識しかなかったのですが、著名なベストセラー作家でした。この人が、すごかった。一気にファンになってしまった。さて、この回のテーマは「靴」。「さっきまでは大きな範囲だったのに、いっきに対象が絞りこまれました。」「学校のあるあるってのは定番だけど、靴のあるあるってあまり聞かないからどうなるんだろう」と興味津々な劇団ひとり
解説はやしろが担当。シンキングタイム中にやしろが「前回の打ち上げでは清水さんを僕とRGで取り合うってコントをしてたら、いつの間にかRGと僕がホームレスの夫婦って設定になってしまった」と発言し、そこから劇団ひとりとやしろによるミニコントがスタート。旦那を決して責めない献身的な妻を演じるやしろに、みのもんた風に話を聞く劇団ひとり、という設定で延々続けられました。

  • 寿命を終えた靴 ベランダで第二の人生はじまりがち/ケンタロウ(RG)
  • 「忘れてきた」 シンデレラの計算高さ/清水
  • パーティー会場 スニーカー履いてる奴の大物感/西

ブレずに「○○がち」を使い続けるケンタロウさんに総ツッコミ。「これはどうなんでしょう?」というひとりに対し「でも自分のスタイルを持つっていうのは武器になります。ただ、それはあくまで発射台なんで、詩ができたらその発射台を切り離せばいいんですよね」と、褒めて伸ばす俵顧問に一同感動。「こんなに傷つかないダメ出しを受けたのは初めてです!」とケンタロウさん。清水の詩には「みんながよく知っているストーリーをこんな風に解釈するのはすごく高度!」と、こちらも見事な褒め芸はさすが教員経験者。ケンタロウことRGは「漫画『NANA』にこんなシーンありますよね。あれは要約すると“靴の脱げた女が男の家に転がりこむ”話なんで」という補足情報も。西さんの詩は「パーティーの中にヒエラルキーがあって、“こんな格好でもこんな場所に来れるオレ!”っていうのがある。」と説明。同じく文壇に属する俵顧問も納得。この人の目線、すごく好みだ。

  • 「プーマの靴って、幅せまいんですよ」と聞いてもいないのに店員いいがち/ケンタロウ(RG)
  • 沖縄のタクシードライバー まっとうな会話してたけど裸足/清水
  • あいつ、やっぱり  靴とがってた!!!/西

「プーマの靴」については会場にも賛同者がいました。でも「“聞いてもいないのに”で止めておけばいいのに発射台付けたまんま!」とツッコまれるRG。そして清水の詩は実話を元にしているらしく、「すごく普通に話していたのに、降りるときにふと足元を見たら…裸足!?ってなって。沖縄特有なんですかね?」とコメント。そして会場が沸いたのがこの西さんの詩。「打ち合わせとかで先に到着して座ってる人の顔を見て“あ!”って思って、終わっておじぎをするタイミングで足元を見たら“やっぱり!”ってなる」と。「ちなみに有名人では誰が尖ってそうですか?」というひとりの問いに「葉加瀬太郎!」と即答するその姿に惚れました。「あと“おしゃれは足元からって言いそう顔”ってのもある。葉加瀬さんが代表だと思ってたら実際にそう発言していた」らしいです。自分は即座に「宮迫博之」の名前を思い浮かべましたが、大喜利だったら確実に「葉加瀬太郎」の勝ちですよね。
西さんが優秀作品に選ばれるかと思いきや、ここでは「『NANA』の例えを聞いて普遍性を感じた」とここでも“RGアシスト”が発動。結果的に「「忘れてきた」 シンデレラの計算高さ」が優秀作品に選ばれました。解説のやしろは「靴っていうテーマで、こんなにバラバラで幅広い詩ができるんだ!」と感動していました。


そして最後の第4ステージには西、有野、そして星野という布陣。解説にはRG。このシンキングタイム中に俵万智トリビアとしてサラダ記念日の裏話が披露されました。
「『この味がいいね』と君が言ったから 七月六日はサラダ記念日」という代表作。実は「サラダ」ではなく「唐揚げ」だったという話。この短歌をつくるきっかけは、唐揚げを作って喜ばれた時に感じた嬉しさを歌にしようというのが発端。そのニュアンスを伝えるには唐揚げでなくサラダの方がより伝わるだろうし、唐揚げというメインとりもサラダという副菜の方が爽やか、更にサ行の発音が爽やかな印象を与えるという計算でサラダに変更に。「7月6日」という日付は事実とは違い、サラダのおいしい季節である初夏、そして「7月7日」では七夕なので芸が無いので一日前を選んだ。「事実ではなくて真実を伝えないと。真実を伝えるためのウソは構わない。事実を伝えても芸がない。」という言葉にひどく納得。それを受けてRGが俵の「サラダあるある」というリクエストで中村雅俊の「恋人も濡れる街角」にのせて「今のサラダ水菜使いがち」と歌って締めました。 というわけでこの回のテーマは「音楽」。

  • アーティスト/星野
  • アイポッド聞いてるふりして盗み聞き/有野
  • 「好きな音楽、何?」という言葉のわずかな緊張感/西

星源の「アーティスト」という回答にみんなポカン。「やっちゃった!」感丸出しの顔で「アーティストって、芸術家って意味じゃないですか。でも最近ミュージシャンのことをアーティストって呼ぶんです。あれってなんなんだろうって。あとアイドルとかがいつの間にかアーティストって名乗ってたり…」とここに込められた意味を解説。「削りすぎですよ!」と劇団ひとりがツッコみ、「俵さんならここに何を付け足します?」と振ると「例えば…“いつから”アーティストって感じですかね…」と言った瞬間に即座に別のボードを取り出すリーダー。そこには…なんと、まさに今言った「いつからアーティスト」と書かれているではないか!出演者も観客も全員驚愕。「迷ったあげくに間違えました!」と悔しそうなリーダー。「なに今の!手品みたい!!」と劇団ひとり。ああ、歌詞や文章もこんなふうに聞く人や読む人に行間を読んでもらおうとしてるんだなー、と、短い言葉にいろんな思いを託す星野ならではの出来事でした。
有野の詩にはみんな「あるある!」と共感。「気になること喋ってたら、iPodとかDSとかスッと音下げる」という有野に「私も人の話を盗み聞きしたいからiPod買おうと思ったことがある」と西さん。それに対し「いや、わざわざiPod買わんでも、胸にイヤホンだけ忍ばせといたらいいんですよ。何にもつながってない。」とアドバイスする有野。
西の詩にはこれまた全員が「あ〜!」と大納得。即座に能町みね子の「くすぶれモテない系」で言ってた「最大公約数的趣味の“くるり”」を思い出した。この「試されてる感」に対する緊張には本当に共感できる。「いっつもなんて言ったらいいのか困るんです。なんか、『長渕!』って答える人いるじゃないですか。好きな音楽は?って聞いてるのに人物で返ってくるあの感じ。その人にとっては音楽=『長渕』っていう、その潔さに憧れる。」と、この説明も素晴らしかった。そして「男が『長渕』だったら、女性は誰になるんでしょうね?」という劇団ひとりの問いに有野が「『カヒミ・カリィ』って言っとけばいいんちゃいます?」と返したのも素晴らしかった。絶妙のタイミングでおもしろワードに昇華されてしまったカヒミ・カリィ

  • チャゲの明るさ/星野
  • 段ボールに入れたままのシングルCD/有野
  • 内田裕也より樹木希林の方がロックだよね?」 うるせぇ/西

チャゲの明るさ」という言葉から滲み出る侘びしさたるや。これには全員が手を叩いて爆笑。「バカにしてます?」という劇団の問いに「いや!大好きなんですよ!!」と返す星野リーダー。そうそう、ちゃんと表向きはそう言っとかないと!数年前にオールナイトニッポンを担当してたときにわざわざコメントいただいてましたもんね、CHAGEに。頑なに拒むけど、絶対心の奥底ではバカにしているのが今回は見えちゃってたのがよかったです、久々に黒い部分が見られて。そして「『チャゲの』って付けたらなんでもおもしろくなるな」っていうのは有野談。ちなみに余談ですが、2009年、まさにこのイベントが行われていた草月ホールCHAGEがワンマンライブをやっていたそうです、しかも10DAYS。その名も、『唱う門には“Chage”来たる!』。完璧。
シングルCD(8cmCD)の話は確かに納得。残しておきたいけれど聴く術もなくなりつつあるシングルCDは、段ボールほどはないけれどいまだに収納に困りつつ棚にどかっと平積み状態の我が家。「もう8cmCDって作ってないらしいんですよね」という話に、そういえばグッドラックヘイワが数年前に8cmCDでシングルを限定発売してたけど、そのときも「もうほとんど作られてないから数に限りがある」って言ってたのを思い出しました。
そして最後の最後に飛び出したのが西さんの詩。「ロックだよね?」まででも意味は通じるが、そこに力強く書かれた「うるせぇ」の文字。「これをしたり顔で言う奴がいるんですけど、そんなんYahooニュースのコメントで何千人も書いてるわ!って思って。」と素晴らしい考察、完全に惚れました。思わず劇団ひとりも「恥ずかしいけど、これ言ったことある」「もう西さん、R-1とか出たらいいのに」と舌を巻く。俵さんも「削るだけが能じゃない。足してこんなに素晴らしいなんて感動した」と絶賛。RGに至っては「文系女子が歯向かう瞬間を見たって感じ。字体もいいので『うるせぇ』ってTシャツにしてほしいくらい」とまで。是非ともこの字体や文字の大きさを見ていただきたい。というわけでこのステージの優秀作品は満場一致で「うるせぇ」に。そして最優秀作品もゲット。素晴らしかった!


異種格闘技戦のこのイベント。正直、アウェーにいる星野源を見たいから、という動機で見に行ったのだけど、そんなこと関係なくいいイベントだった。「あるある」「大喜利」の体裁を持っているためにお笑いのフィールドに属している人が強いかと思えば、短い言葉にビシッと詰め込んでくる小説家、ミュージシャンの表現力の多様さに改めて気付かされる。何よりこのイベント全体で印象に残っているのは俵万智の解説。数学のような公式もない、感性が勝負であると思われた「詩」を、こんなに丁寧に、そして優しく解説し、更には空気も読んでいく。これには感動させられてしまった。サラダ記念日、伊達じゃなかったです。次回、もっといろんな業種から参加者を募って欲しい。

最優秀賞は西加奈子、劇団ひとり&俵万智出演「共感百景」開催 - お笑いナタリー