「Loser's Parade」

for さえない日々

星野源の日比谷野外大音楽堂ワンマンライブ(2012/5/13)

星野源ソロでの野音ライブ。先日、SAKEROCKの新作DVDでバンドでの野音ライブを見たばかりだったので、なんだか不思議な感じ。なにせ、SAKEROCKの(当時)4人のうち2人がそこにいたので。現体制ならば3分の2が出演。
それにしても、たくさんの人が足を運んでいた。客席はもちろん、立ち見客もいっぱい。更には後で分かることになるのだけど、音漏れ目的で集まってきている人たちもいたらしい。
開演前、入場待ちの列
ステージに現れたのは星野と、ベースの伊賀航、ドラムの伊藤大地の計3名。会場を見渡して「すげー人だな!」と話し、ライブは『ひらめき』から始まった。「あ、『歌を歌うときは』じゃない」と驚いた。2年くらいはどんなライブでも最初にこの曲を選手宣誓のように宣言していたのに、今回は『ひらめき』から始まった。ライブの構成上、外さざるを得なかったのか、それとももうこの曲をもって宣誓しなくてもよいと判断したのか、それはわからない。その後も『ばらばら』『キッチン』と3ピースで進んでいく。「以上、精神的に不安定だった時につくった曲を3曲聞いて頂きました。明るいうちにやっておきたかった。」なんてちょっとおどける。
この日、先述の通りチケットを購入できなかった人たちが音漏れ目的で会場外に集まっていた。それを知った星野は「音漏れの人ー!」と呼びかけると、それに答える結構な数の声。え、いったいどれくらい集まってんの?10人20人どころの声じゃなかったと思う。この音漏れ目的の人への呼びかけは、前日にPerfume武道館で音漏れ組に声をかけていたことを受けての対応だったのだろうか、はたまた偶然か。


今回はキーボードがおらず、その代わりを漣さんのペダルスティールが担っていたかのようなアレンジになっていた。それが如実に分かったのが、漣さんを呼び込んだ直後に演奏された『営業』だった。キーボードが編成にいない時点でこの曲はやらないものだと思っていたのだけど、「この公園に、平日の昼間にタオルをかぶって寝ているような営業マンの生霊が漂っていると思うので、その生霊に捧げます」と言い出した。あれ、やるのか、と思ったら、音源ではオルガンの音がイントロを引っ張っていたのが、星野のミュートした、時折気持ち悪い響きを入れるギターで始まる。そこから漣さんの音も加わって盛大なロックサウンドの『営業』に。こんなアレンジになるのか!かっこいい!その後演奏された「フィルム」のカップリング曲である『乱視』は生で初めて聴く曲。音源ではハマ・オカモトと神谷洵平による3ピースで無骨な演奏だったために、ライブでも他の曲に比べると骨太な印象。


『未来』を終えて、ここからは一旦バンドメンバーが下がって弾き語りコーナーに。そう言えば久しぶりに『たいやき』を聞いたような気がする。eastern youth吉野寿との共作であるこの曲は今でもフリーダウンロード可能なので、みんな音源を手に入れたらいいと思う。本当にいい曲。
ギターを爪弾きながら、「夏が近いですね…」という出だしから始まったMC。「夏と言えば思い出すのが…19歳の頃、好きな女ができまして。」「良い物件は埋まっている、という名言がありまして、その彼女は彼氏持ちだったんですけど、すごい頑張ってデートの約束を取り付けまして。」「でも前日になって『友達と泊まりでキャンプに行くことになったからいけなーい』というメールが来てしまい。仕方なく当日はバイトに入ったんですけど、その帰り、帰り道にその女性の家があったんでちょっと覗いてみたら、部屋の明かりがついてまして。あれ?って思ったら彼氏と楽しそうに話す声が聞こえてきて。」「ふざけんな!と思い、無い知恵を絞って本屋に出向き、キャンプ雑誌を買ってきてその家の玄関に叩きつけて帰って来ました!」と、若かりし頃の、苦いんだか可哀想なんだかな恋愛エピソードを告白。
ところでこの話、以前にも聞いた覚えがあったのですが、いったいどこで言ってましたっけ?新宿タワレコのトークイベント?風呂ロック?渋谷クワトロのワンマン?阿佐ヶ谷に住んでた時の話で、確か相手は結構歳上(30歳くらいだっけ)なんじゃなかったでしたっけ?
そして、「そんなあの子は、“透明少女”」と言い残し、歌が始まる。その台詞を聞いて「え!マジで!?」と、瞬時にそれが何を指すのかを理解して興奮したら、「赤いキセツ 到来告げて」と始まった。ナンバーガールの『透明少女』だ!先日のJAPAN JAMというイベントで向井秀徳と共演した際にこのカバーを披露した、というのは知っていたが、まさかワンマンでも披露してくれるとは!「10年以上前、狭い家の中で(ナンバーガールを)聴き倒した」と発言していたそうだが、同学年である自分も全く同じだ。1980年生まれ周辺で音楽好きな人物は、ナンバーガールに対して過剰な思い入れを持っているものは少なくないと思う。それにしても、今までこの曲を「夏の歌」と分類する発想がなかったが、そう言えば気づいたらこの曲はなんとなく夏の曲だった。

原曲は2つのギターコードが重なった独特の濁り、そして向井秀徳のときどき吐き捨てるような叫びの歌を有しているのに対し、弾き語り『透明少女』は、ハイポジションで抑えられたコードがきらきら光ってて、「気づいたら俺はなんとなく夏だった…」と透き通って見えた。それと同時に、音の装飾なしに現れた歌詞の言葉群から70年代フォークのような泥臭さも見えた。気づいたらこの曲は自分が熱心に聞いていたあの頃の風景とともに、日比谷の街の中へきえていった。


弾き語りの『老夫婦』が終わると、バンドメンバーとともに、トロンボーンクラリネット、トランペット、ホルンのホーン隊も一緒に登場。そして静かに始まったのは『エピソード』。最後、“ジャン”と終わるところで星野のギターのネックがマイクにぶつかってしまい、「ごめんごめん、最後だけもう一回!」と“ジャン”だけやり直すという一幕も。
『エピソード』の演奏中だったか演奏後あたりにBブロックあたりが騒がしくなる。よく見ると、人が倒れたらしい。周りの人達が必死にスタッフを呼んでいるのに星野も気がつく。どんどんスタッフが集まり、ただごとではない雰囲気にライブは一時中断。いよいよ「お客様の中に看護師の方はいらっしゃいますか?」というセリフを現実で聞くことになる事態に。すると、観客の中から続々と現場に駆けつける姿が。10数人も駆けつけるその姿に、「こんなにも医療に携わっている人がいるのか!」と驚くとともに「かっこいい…」と羨望。
と、無事に対応が完了できたかと思ったところに更なる悲劇が。今度はBブロックとCブロックの中央あたりで笑い声。何かと思えば、なんと救護のために奔走していた角張社長が、勢い余ってずっこけてしまったらしい。しかも顔から転んでしまったために流血騒ぎに。それを知った星野は「事態を大きくしてどうするんだよ!」とツッコミが。更に「(舞台袖を見て)ちょっとサンタさん!なんでカクバリさんを撮影しに行っちゃうの!撮影するのはこっちでしょ!」とツッコミ。10分以上ライブがストップしていたために空気が止まって澱み始めていたところを、この一発の事故で払拭してまった。さすが角張社長、エンターテイメントの神様に好かれている。なお、倒れてしまった方、そして角張社長共々、ライブ後に無事だったという報告がありました。


「病院に行かれてしまったあの方に捧げます」と言って歌われるのは『茶碗』。今回は管楽器も入った演奏なので、老夫婦の歌が一層華やかで明るい曲になる。続くのは『もしも』。これも『乱視』と同じく「フィルム」のカップリングで3ピースで収録されていたものだが、今度は管楽器まで入って武骨な感じにプラスされて彩りを付けていく。この彩りが一番効果的だったと思ったのは、『日常』。鍵盤はいないけれど、それでも「暗い道でも進め進め」と言わんばかりに背中を後押しされた。その後、おそらく客席が一番聞きたがっていた『くだらないの中に』、そして『フィルム』を演奏して本番は終わり、アンコールでは『くせのうた』を披露。最後に「一人の歌でも、SAKEROCKでもこれからがんばっていきます」としめて、ライブは終了した。

  1. ひらめき
  2. ばらばら
  3. キッチン
  4. グー
  5. 湯気
  6. 営業
  7. 変わらないまま
  8. 穴を掘る
  9. ステップ
  10. 乱視
  11. 未来
  12. バイト
  13. たいやき
  14. 透明少女(NUMBER GIRLカバー)
  15. 老夫婦
  16. エピソード
  17. 茶碗
  18. もしも
  19. 予想
  20. 日常
  21. くだらないの中に
  22. フィルム

En.くせのうた

ところで、先日のラジオ「RADIPEDIA」にて、星野が「バンドのSAKEROCKは去年まで。今後は(「YUTA」の頃のような)音楽集団に戻ります。」という発言をしていた。この言葉、昨年末の田中馨ラストライブでも宣言していたことだけど、ソロでの大きなライブを終えたタイミングで改めて公共の電波でこの発言をしたことは、わりと重要なことなのではないかと思っている。更には「DVDに“いいバンドでした”というコメントを添えようとしたら寂しすぎるからって却下された」「バンドのSAKEROCKが好きだった方はDVDでお楽しみください」とまで言っている。
新体制のSAKEROCKがどのようなライブを行うのか、これでわからなくなった。ラジオでの発言は、過去を振り払って、もう前しか向いていなかった。今までのようなライブはもう行わないだろうから、当然、サポートベースだけを入れて前のように…ってことはしないはずだ。じゃあなんだろう。音楽集団って言ってるくらいだからたくさんの楽器を入れてライブをするかもしれないし、逆に3人だけで行うかもしれない。もしかしたらパートが変わっているかもしれないし、打ち込みを導入する可能性だってある*1
「一人の歌でも、SAKEROCKでもこれからがんばっていきます」と宣言したからに、「どんなことをしでかしてくれるんだ?」と様々な期待を抱いて6月のSAKEROCK新体制ライブを待つことにします。

*1:P.P.P.P. BEST」の1曲目『OPEN』は星野源によるブレイクビーツでしたからね