「Loser's Parade」

for さえない日々

「3人のインストバンド」の唄

日曜日、東京では「カクバリズム 10years Anniversary Special」が開催された。このライブのことはあとで詳しく書くとして、とにかく急いでこのことを書きたくなった。それは、SAKEROCKがオリジナルメンバーの3人で『インストバンドの唄』を演奏したことだ。
6月同様、9人体制でスケールが大きくなったSAKEROCKでの演奏。新しいSAKEROCKの演奏は次の次元に引き上げられている。しかし、昨日はそこだけでは終わらなかった。


リハーサルにて『老夫婦』。本番では『慰安旅行』『会社員』『エメラルドミュージック』『サケロックのテーマ』『MUDA』と演奏してからサポートメンバーが退場し、星野リーダーはそれまで持っていたテレキャスターシンラインからアコースティックギターに楽器をチェンジ。それまで客席を向いていたのを、くるりと向きをドラムの伊藤大地の方へ変え、客席に背を向ける形になった。同じくハマケンも少しドラムの方へ向きを変える。
そして始まったのが、『インストバンドの唄』だった。3人だけで演奏されるこの曲、1番は星野リーダーが唄い、2番からはハマケンのトロンボーン伊藤大地の口笛で。そして、最後には唄とトロンボーンと口笛を使い、全員でメロディを奏でた。
「わからない ごめん 僕らはインストバンドさ どんな風に うたえばいいの」という歌詞の曲を、3人で、全員で、皆向き合って唄うこの演出に、恥ずかしながら思わず涙が出てしまった。


作品というものは生み出した本人だけのものではなく、発表した時点で届けられた人の解釈によって、それがたとえ本人さえ予想しなかった方向でも意味は多様に存在するものであると思っているので、自分はよく作品の誇大解釈、誇大妄想を行うことが多いのだけど、この演出にはSAKEROCKが「発展の途中」であることを告白しているように勝手に受け取ってしまった。
アルバム「songs of instrumental」では、1曲目にこの『インストバンドの唄』が収録され、アルバムの最後*1にはこの曲のインストバージョンである『インストバンド』が収録されている。「僕らはインストバンドさ どんな風に うたえばいいの」という問いかけに対して、最後に見事「インストバンドが唄うということ」についての答えを出している構成である。しかも、ピアノは元メンバーの野村卓史だ。オリジナルメンバー5人で演奏しているというのが、たまらない。
そして今回である。サポートメンバーを退出させ、改めてオリジナルメンバーの3人だけで向い合って『インストバンドの唄』が演奏されたのだ、しかも全員がメロディを担当する形で。これは、3人のSAKEROCKが今、「どんな風に うたえばいいの」かを改めて模索している途中であることを宣言したということではないだろうか。「わからない ごめん」という断りに、以前とは違った意味が生まれてきているように思える。
腕利きミュージシャンをサポートに入れて大所帯になり次の次元に引き上げられたSAKEROCK。6月に初ライブを見たときはその進化に驚きと大きな期待を感じたのは当然なのだけど、急な変化に戸惑いを覚えたことも否めなかった。なにせ「バンドから音楽集団に戻る」宣言だ。そりゃ初期から知っている人にとっては「原点回帰」と捉えることができたのだろうが、こっちはバンドとして長年楽しませてもらった身である。やはり少し寂しい気分にもなった。
中にはついてこれないファンを振り落とそうとする人だっている。バンドの変化なんてどこにでもあることから当たり前のことだ。それにも関わらず、長らく以前のSAKEROCKを楽しんできた身である自分は、いつの間にかそのSAKEROCKに固執してしまうかのように「まみれて」しまっていた。その事実に情けなくもなったけど、やはり寂しさがあるのは事実だった。
しかし、この演出にはその寂しかった思いを吹き飛ばすものがあった。バンドを好きだった人に対して無理に振り落とそうとすることなく、ちゃんと目を向けてくれていたのだと感じることができたのだ。そもそも、演奏した曲の名前だって“インストバンド”の唄じゃないか。個人活動が活発になっていることに対してファンが不安を抱いている件も、当日配布された「カクバリズム10周年BOOK」の中で触れてくれていたし。なんだかそれらを受け止めた気がして、涙が出てしまったのだった。まあ、最後の最後でハマケンが入るところを間違えたおかげで「ああ、この綺麗にオチないところも含めてサケロックだなあ」ってのを思ったりもしたので最後には泣き笑いですが。


今回のライブでは答えである『インストバンド』は演奏されず問いかけのままだった。しかし、その答えを見つけた時に、再び『インストバンド』が演奏されるのでは…というのはちょっとドラマチックすぎるか。でも、SAKEROCKはこれからどんどん面白くなっていくのだと、改めて思い直した。



さて、ちょっと最近忙しくてブログの更新を怠っていたけど、これを機に元のペースに戻るようにします。過去のことでも書きたいことが溜まっちゃってるんで、しれっと過去日に上げていきます。

*1:ボーナストラックで永積タカシがハマケンを待ち続ける『待ちぼうけ』とハマケンが織田信長を“政策は全部ブレーンに任せていた社長大名”であるとディスる『信長』が後で待ち構えてはいますが。