「Loser's Parade」

for さえない日々

KAKUBARHYTHM 10 YEARS ANNIVERSARY SPECIAL@新木場スタジオコースト(後編)

前回の続き。

(((さらうんど)))

イルリメ率いるシティポップバンド。見るのは2回目。
近頃、イルリメこと鴨田潤はラップにとどまらずに様々な表現活動を行なっている。弾き語りを行い、小説を出し、そしてバンドを結成。バンドといっても編成はボーカル(たまにギター)、ドラムマシーン、キーボードの3人。基本的に打ち込みで、サポートとしてギターとコーラスの5人でライブを行っている。
イルリメの歌心っていうのは2006年に出た二階堂和美の傑作「二階堂和美のアルバム」にて全曲の作詞とプロデュースを担当していることからも伺えるので、歌うことにシフトしていくというのはもしかしたら自然の流れなのかもしれない。あのアルバム、素晴らしいもんなー(もちろん新作「にじみ」もよいですが)。あと、近年では坂本真綾冨田ラボワークス)の曲に提供しているようなドラマティックな作詞もいい。
リハーサルからイルリメ節が炸裂していて、突然マイク&ギターチェックでJUDY AND MARY『そばかす』を弾き語り出す。実は事前に「リハでTMをやる」という話をceroにしていたら先にやられてしまった*1らしい、などとライブ前なのに喋り出す。
こうしてリハーサルから盛り上げて愉快なライブになるのかと思わせておいて、実際の音楽はとても80'sセンチメンタル。深いリバーブのかかったスネアの音、「空中分解するアイラブユー」といったタイトル、「ネオン」や「RIDE ON」などの言葉が使用される歌詞は、80年代の未来感。これが、バックスクリーンのVJと合わさって「あの頃の近未来」感。あと、単純にすっごい歌がいい。ちなみに佐野元春のカバー『ジュジュ』では「キセルの辻村弟に『イルさん、あの曲の時、手持ち無沙汰に見えるからとりあえずギター持っといたら?』って言われたからギター持ってるけど、音は出てません!」という告白も。全編手打ちの『R.E.C.O.R.D.』、最後にメンバー全員でステージ前方に出てきた『サマータイマー』もいい曲。

二階堂和美 with にじみバンド

最新作「にじみ」のレコーディングメンバーを引き連れて登場した二階堂和美
カラフルな衣装に身をまとって登場した瞬間からすべてがキラキラ輝いていて神々しい。「ずっと立ちっぱなしで疲れたでしょ?ごめんね。ちょっと背伸びしようか?」などお客さんへの気遣いまでもがなんだか「ありがたやー」と拝みたくなる。
終始ニコニコしながら楽しそうに、日々の生活に寄り添った歌を歌うニカさん。『あなたと歩くの』の可愛さしさ、『説経節』のおっかなさ、『お別れの時』の悲しいのにハッピーさ等々、コロコロと表情も歌い方も声も変えていく。その姿に圧倒されるしかなかったです。『説経節*2』でちゃんと角張社長が歌に合わせて謝ってたのは笑いました。イベントだから持ち時間も限られていたので、今度はあのメンバーで『いてもたってもいられないわ』や『今日を問う Part2』とかを聴いてみたいです。…かつてのようにSAKEROCKがバックになってもいいんですよ!あ、『女はつらいよ』の前に曽我大穂さんが演歌のステージの司会者さながらに曲紹介をしたのが面白かったです。
イルさんもカクバリズムに対しての感謝を告げていたけど、ニカさんは『説教節』という角張社長に捧げる曲を書いているくらいですから、感謝というか「うちの子が本当にすいません」みたいな、なんだかカクバリズムのお母さんのようなポジションだったのが印象的だった。

キセル

そういえばカクバリズムって東のレーベルなのに西の人たちが割と所属してますよね。ここまでの3組なんてみんな西の人だし。地域関係なく寄ってくる(もしくは集めてくる)カクバリズム
ゆるく見えてその実、熱い志しを持っているキセル。最近では辻村兄が斉藤和義のとしてよくテレビで見かけたり、星野源初MステではフジロックでCaravanのライブサポートのために欠席した伊賀航に変わってベースと、更にはコーラスを担当していましたね。
キセルのライブはいつも安定していて、ぐわーっと盛り上がるようなライブではないけれど、それでも見ているうちに静かに盛り上がっていく。それは兄弟の綺麗なコーラス、頭に残るサビのメロディ、それを盛り上げる編曲と演奏。それぞれが作用している。『ビューティフルデイ』なんかは特に感動的。

「なんか緊張感あるな」っていう言葉から始まったふたりのMCは、これまでの出演陣に比べるとまったりとしていて全然雰囲気が違うのだけど、これはこれでカクバリズムっぽさもある。キセルというユニットは10年以上前に、まだ組んだばかりの頃に、まだふたりでカセットテープのMTRをバックに演奏している姿を関西で何度も見たことがあったのだけど、いやほんと、キセルカクバリズムに移籍してきて本当によかったと思う。メジャーにいたときよりも、のびのびとやっている印象を受けます。

SAKEROCK

そしてSAKEROCK。6月の新体制初ライブから2度目の体験。メンバーは3人とサポート6人の計9人と、6月と同じ。
とにかくお客の期待度が凄かった。これが単なるメンバーのファンだからだったのかどうかはわからないけれど、フロアはいつの間にかギュウギュウ詰め。出演者が多いのでリハーサルも時間がかかっていたけれど、それを見越して星野リーダーが「リハーサルやります!」と『老夫婦』を披露。公開リハーサルはイベントだと以前からやっているし、ソロでもやっているのでそう特別なことではないのだけど、以前よりも貴重となったSAKEROCKのライブを少しでも多く見たいファンとしてはとてもありがたい。


リハーサルながらそのままメンバー紹介をするリーダー。「ベース吉田一郎!from ZAZEN BOYS」「ギター辻村豪文!from キセル!」「バイオリン岡村美央!」「チェロ古川淑恵!」「ビオラ高嶋真由!」「そしてドラムス伊藤大地!」「ギター、マリンバ星野源です!」と来て「…以上のメンバーでお送りいたします」と〆ると途端に「「おーい!!」」と騒ぎ出すボケ担当2名。池ちゃんがサポートに入ってからツッコむ対象が増えちゃって「どっち?どっちから処理すればいいの?」と大変そうなリーダー。
「なんでやねん!なんでやねん!」の関西弁ツッコミ、この時期の「んー!」とパッション屋良をブッコミつつ、「どうも!イケロックです!」と挨拶するキーボード、池田貴史 from レキシ。再び「…以上でお送りいたします」で〆ようとすると「おい!」アゲイン。その声の先に対して「えーと…在日…ファンクの…」と最近絶好調な別活動の名前を出すも、「今日は違う!こっちに専念する!」と反論する浜野さん。「そういや結成の時、ハマケンにトロンボーンで声掛けたら『オレ、ボーカリストになりたい』って言って最初は断られたね」「そんなこともありました」「(あの時の夢)叶ってるじゃん!」と結成時期の話をしつつ、「トロンボーン、浜野謙太!」と紹介。「そしてもう一人のメンバー、社長、角張渉!」として社長が登場。
ここでの社長の紹介がとても感動的だった。「これ、大阪でも言ったんですけど。大切な宝物です。SAKEROCK!」


『慰安旅行』は前回同様、出だしはストリングスだけで厳かに、徐々にみんなが合流していく。ちなみにこの曲のリーダーの担当はマリンバ。続く『会社員』で大爆発。6月からの違いといえば、伊藤大地のドラムセットがツータムになっていて、しかも左から小さいタムを並べる一般的なものと違い、順番が違う特殊なセッティングをしていたこと。調べると、これはバーナード・パーディというドラマーのセッティングを模したモノのようです。このおかげでドラムソロは今までよりも叩きまくりで迫力がありました。その興奮も覚めやらないままの勢いで『エメラルドミュージック』に雪崩れ込んでフロアはモッシュ状態。もう1本のギター、バッキバキの吉田一郎のベース、池ちゃんのファンキーな鍵盤、3本のストリングス。SAKEROCKが骨太になって帰ってきた。
ここまで突張してきたところでMCの時間。ここで客席から「ハマケンかっこいい!」という声が上げるとすかさず浜野さんが「ハマケンがかっこよかったってTwitterに書いとけ!」と威嚇。それに対して「ハマケンかっこいいって書けって言われた、って書いといてね」と流すリーダー。ああ、なんか久しぶりに客を威嚇する浜野さんを見た気がする。6月の時は池ちゃんに圧倒されてなのか、それとも緊張のためだったのかほとんど気のない態度だったから、ちょっと安心した。そして続く『サケロックのテーマ』の前には「この曲にはきっかけが必要なんです」と言って角張社長を再度ステージに呼び出し、吉川晃司のシンバルキックをさせる!

※過去の角張社長のシンバルキック動画
「つぎがラストになりました。」という声に\えー!/という声はあるが、それでは不満の星野リーダー。「オレがタモリさんなら納得しないよ!池ちゃん、ちょっとやってみてよ。例えば。」「例えば?」という号令のもと、急に「たとえば〜」と米米CLUBの『君がいるだけで』を歌い出す池ちゃん。どうやらこれはリーダーと裏で打ち合わせをしていた様子。このやりとりで永遠二人でキャッキャウフフしていたのだけど、「あんまり引っ張ると…ハマケンを食うなって言われてるし」と本人なのか誰から言われたのかわからないけれど、ファンがちょっと思っていたことを自ら発言したのですが、それに対して「それは…ハマケンの責任です。」ととっても厳しい星野リーダー。そしてその後ろでは無言でベースのネックにこれでもかというくらいの弦潤滑スプレーを吹いている吉田一郎。これに対して「なんでそんなにスプレーしてんの!」とツッコむ星野リーダー。ボケ役が3人になっちゃった!
「みんなで歌ってください」とあらかじめ練習させておいてからの『MUDA』で本編が終了。これで終わりかとおもいきや…ステージ上に3人だけが残ってサポートメンバーが退出。そして、本当の最後に演奏した『インストバンドの唄』。これについては以前書いたとおりです。音楽の演奏を見てあんなに泣いたの、初めてでした。どうにも思い入れが強すぎます。以下、セットリスト。

6月のはライブではこのリストから『インストバンドの唄』を除いて『千のナイフ妖怪道中記』と『Firecracker』のカバーを演奏してましたね。あ、そういや最近気がついたのですが、節目節目で演奏される重要曲『サケロックのテーマ』って、星野リーダーと田中名人の共作なんですよね。この曲はずっと演奏され続けて欲しいです。

YOUR SONG IS GOOD

開演から6時間以上経って、ついにトリ。トリはカクバリズムが設立されるきっかけとなったバンド、ユアソン。このバンドがいなかったら、カクバリズムは存在していなかったし、そもそも今回のイベントが開催されていない。もしかしたら自分はSAKEROCKとも出会えていなかったかもしれない。
カクバリズムと運命共同体であるユアソンのライブは、それはもう大盛り上がり。「なんで開演から6時間以上も経っててそんな体力があるの!?」と思うくらいに、初っ端から『THE LOVE SONG』でモッシュが起こる。「10年前に作った曲です!」と、ユアソンにとって方向性が定まった重要曲『10 INCH STOMP』、「小田急線から世界の果てまでも〜」と制作当時の生活を反映させた『あいつによろしく』をアカペラではさみつつ、『熱帯BOY』『B.A.N.D.』でクラウドサーフの嵐。みんな何かを発散させるかのごとく暴れまくっていました。ラストは下北沢インディーファンクラブでも披露していた、ユアソンの新機軸となりそうな新曲を。
演奏中、トリということもあって出演者が袖でノリノリになっているのを見ることが出来た。途中、ceroの高城がフロアにダイブをかましたり、ニカさんがノリノリで踊っていたりと、幸せの絶頂の場ができあがっていた。アンコールとして『CATCH AS CATCH CAN』が演奏される中、今回の出演者、そしてカクバリズムスタッフがジュンさんの紹介のもと、全員ステージに呼びこまれる。どしどし呼び込まれるからステージはあっという間に人だらけ。各自打楽器を持っていたり、なぜか池ちゃんは横笛を持っていたり(その後、その横笛はにじみバンドの曽我大穂さんに寄って華麗に吹かれていました)ととっちらかっていたのだけど、カクバリズム所属の人だけではなくてゲスト参加の人やサポートの人たちもみんな笑顔だったのがとても印象的だった。ひとりくらい渋々所在なさげにステージにいるという人がいてもいいのに。その狂乱のステージはTUCKERさんのブログで確認できます


大団円で終了したユアソンのライブ。ジュンさん曰く、「今日だけは、世界で2番目にかっこいいレーベルです!…1番目はDischordかLess Thanなんでね。」ということですが、それならカクバリズムは3番目じゃ?などという細かいツッコミは置いときまして、ここからは「THE 余興!」。5年前の渋谷AXでもマイクを握ったこの日の主役、カクバリズム社長の角張渉が2000人強の客の前でマイクを握る。演奏されたのは、The Foundationsの『Build Me Up Buttercup』。

歌詞を今回出演したアーティスト名に差し替えてそれはそれは楽しそうに歌い上げていました。そして「ありがとうございました!今度ライブハウスで見かけたら声かけて下さい。一杯奢りますんで。それでは、街のライブハウスで会いましょう!」という締めの挨拶で終了。長くて疲れたけど、楽しかった!


今回が10周年記念ライブってことで、5周年記念ライブのことを思い出しました。5年ってあっという間だな!って思ったけど、あのときはちょうど上京したてで、東京に対して浮き足立ちまくっていたとき(今も完全に地に足は着いていないかもしれませんが)。地方在住で周りにSAKEROCKが好きっていう同士はおらず、いつもひとりでライブを見に行っていましたけど、東京に来て様々な出会いがありひとりではなくなっていました。
そもそも、カクバリズムというレーベルを認識したのは…やっぱりSAKEROCKからだろうか。しかし、SAKEROCKを知る以前からYOUR SONG IS GOODのことは知っていたから、もう8年くらい経つかもしれない。当時社会人になったばかりで、学生時代とのギャップに苦しみ仕事もあまりうまくいかず、毎日終電帰りのせいで日々の生活も破綻していて泥沼のような生活を送っていました。そんな中、せめて家の中の娯楽を増やそう、と契約したスカパーで見つけたサケロック。そこからは一気に惹きこまれて今に至ります。
角張社長はサケロックを紹介する際に「大切な宝物、SAKEROCK!」と紹介していましたが、それは自分にとってもそうであって、SAKEROCKを知れた興奮を発散する場所がなかったからこそこのブログを頻繁に更新し、そのおかげで様々な人が見るようになってくれて、そこで出会いもあり、様々な体験もできました。SAKEROCK、ひいてはカクバリズムがなかったら今頃どうなっていたのか、想像もしたくありません。泥沼の日々だった20代半ばの人生を救ってくれたカクバリズムは、僕にとっても一生の宝物です。


しかし、改めて過去の記事を読み返したんですけど、このときに初めてSAKEROCKのセッティングが「∧」になったんでしたっけね。それまではハマケンが中央にいてーって感じで、この体制を経て今は星野リーダーが中央になってんだよなー。5年でどんどんバンドは変化していくし、各個人の環境も変わっている。ユアソンなんて服部さんが結婚報告してたっけ。あと「10周年はもっと大きなところでできますように!」って書いてた。十分大きくなってるよ!
それじゃあ、15周年はもっと大規模になっていますように!東京はコーストじゃもう入り切らないよ!いい季節に、野外とかでやってもいいのではないでしょうか!

*1:ceroはリハでTM NETWORKGet Wild』を演奏していた

*2:「それは三日前に頼んだ仕事でしょ」「あいつ携帯出やしない」など、角張社長に関する実話をもとに作詞されたともっぱらの噂