「Loser's Parade」

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「オレはお前と武道館に来れて本当に嬉しいぜ!」の意味〜星野源復活ライブ「STRANGER IN BUDOKAN」について

星野源復活ライブ「STRANGER IN BUDOKAN」から10日ほど経ちました。すでに多くのサイトでライブレポートが更新されているので、行っていない人でもどんな内容だったのか、概要はご存知の方が多いことでしょう。
「幸せですね」星野源、満員の初武道館ワンマンで完全復活 - 音楽ナタリー
星野 源 @ 日本武道館 | 邦楽ライヴレポート | RO69(アールオーロック) - ロッキング・オンの音楽情報サイト
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上記のレポートでも触れられていますが、自分が今回のライブで一番感動したポイントは、アンコールのときでした。布施明のコスプレで登場した星野リーダーは「どうも!ニセアキラです!」と、『君は薔薇より美しい』を生演奏をバックにひたすら熱唱しました。それは音楽家とは別のもう一つの面である大人計画魂が炸裂した瞬間で、感動的になるはずだった復活ライブのアンコールを、いい意味でブチ壊しにしたのでした。
さて、この茶番のときのことです。やおらリーダーが「ここでメンバー紹介をします!」とはじめ、元SAKEROCKであるピアノの野村卓史を紹介したときに発した言葉が、自分にとって最高到達点でした。

「オレはお前と武道館に来れて本当に嬉しいぜ!」

そしてSAKEROCKのドラムでもある伊藤大地にも同じく、「お前とも来れて嬉しいぜ!」と。

さすがにこの言葉にはグッと来てしまいました。これは単純に昔からの仲間にかけた言葉ということではなく、そこに至るまでの長い歴史を知ることで、とっても深い言葉であったことに気づくのです。これについて、誇大妄想込みで説明したいと思います。


星野リーダーが細野晴臣を知ったのは、元を辿れば野村卓史が高校生時代に自作した「細野晴臣ベスト」のカセットテープをコピーしてもらったことがきっかけで、意気投合した二人が中心となって組んだバンドが「SAKEROCK」でした。
しかし、アルバム「YUTA」制作途中で野村はあまりの制作環境のキツさに脱退。袂を分かつ形になってしまった二人。その後、野村はSAKEROCK関連のものをすべて捨てて音楽活動を一切止めてしまい、一時はパチスロ以外何もしないという生活までになっていました。それを救ったのが伊藤大地で、野村をサポートする形で結成したのが、ピアノとドラムの二人ユニットである「グッドラックヘイワ」。そのライブを見て改めて才能を再確認した星野と、ライブを見に来ていたことを知って「帰れよ!」と思っていた野村はその後、共通の友人の結婚式をきっかけに和解(ここまでの話はQuick Japan vol.65のP140「微笑ましくも真剣な仲直り」に詳しい)。
そこから再び野村はサポートという形でSAKEROCKに参加し、星野ソロでも当初はサポートとして参加していました。しかしグッドラックヘイワ休止を境にSAKEROCKや星野ソロのサポートから離れ、フリージャズ要素が強い「NATSUMEN*1」や敏腕プレイヤーが集結した大所帯プログレバンド「WUJA BIN BIN」といった荒くれ者揃いのバンドに加入するという“武者修行”の旅に出かけることに。そこから2年後、シングル『夢の外へ』で再びレコーディングに参加し、共にミュージックステーション出演などを経験し、星野の病気を挟んでついにライブに戻ってきたのが、今回の武道館でした。


―誰にも季節がある。
14年という長い歴史の積み重ねがあってこその関係。この紆余曲折のストーリーを知って聞く「オレはお前と武道館に来れて本当に嬉しいぜ!」という言葉は、「布施明コスプレ」というふざけた格好だったからこそ言えた本音だったのかもしれません。ステージ後方の大型ビジョンに映った、ちょっと困った笑顔を見せた野村卓史の顔は、一生忘れられません。
また、同時に心のどっかで「あぁ あいつも来てればなぁ*2」とよぎったのも否めない事実。ちなみに当日はSAKEROCK元ベースである田中馨ヤンカノイのライブ、そして浜野謙太はNHKの撮影でトリニダード・トバゴにいたようです。みんな、それぞれの時を過ごしている。


今度はSAKEROCKで武道館に立つことを、本当に願っています。「おじいさんになって、初めてサケロックで武道館に立てたらよくない?」とかつてライブMCで言っていたことを、自分は忘れていません。怒髪天の記録を抜くくらいに遅いタイミングでもいいので、いつかSAKEROCKで武道館に立ち、再び「お前達と武道館に来れて本当に嬉しいぜ!」ということで物語はようやく完結すると思うのです。

*1:前任のキーボードは、いまやゆずやエレファントカシマシのプロデューサーとして有名な蔦谷好位置

*2:(C)スチャダラパー『彼方からの手紙』