「Loser's Parade」

for さえない日々

ぐうぜんのきろく3/SAKEROCK

突然の話で恐縮ですが
人間は2種類に分けられる、と思う。
飛ぶ人間 と 飛ばない人間
サケロックというバンドは どちらかというと 飛ばない側の人たちの集まりに見える
それは 彼らが「ロック」じゃないからだ
女なんて抱かないし クスリなんてやりませんよー
という空気がなんとなく出ているし 服とかもすごく地味だ
だがしかし
この「バーン」の2時間後
浜野謙太は飛んだ
いまどきステージで飛ぶなんてのは ジャニーズかピーターパンくらいなもので
もちろん彼は そのどちらでもない
でも飛んだ
それはサケロックが初めて体験する 長いツアーの最終日のことだった

『平凡な人生』『菌』『モー』『慰安旅行』『ホニャララ』とライブ映像が怒涛の勢いで続けざまに流れてとても気持ちいいと思った瞬間に唐突に挟みこまれるテロップ。ここから、「ぐうぜんのきろく3」の本編はスタートする。
冒頭でいきなり登場するが、ハマケンはツアー最終日のSHIBUYA-AXで、空を飛んだ。その、なんともバカバカしい出来事であり、しかしSAKEROCKらしい出来事について、冒頭にいきなり疑問を投げかける。「なぜジャニーズでもピーターパンでもない彼は、空を飛んだのだろうか」。その答えは、DVD再生2時間後に、今まで流れていた今回のツアー中の出来事、そしてメンバーへのインタビューを元に提言される。先に結論を言ってしまって申し訳ないが、それは「ムダが必要だから」。後半に挟み込まれる個人インタビューにて、星野リーダーはこう述べる。「こなれちゃうのが怖い」と。“こなれた演奏だから安心して見られる=見なくてもよくなる”という危機感を持つからこそ、常に不安定な方へ不安定な方へと流れる。不安定だからこそ時々ミスをする。ミスをするんじゃないかと思うと、目が離せなくなる。それはまるで親がおぼつかない子供を見るかの感覚だ。もしかしたらこれが、彼らの戦略である「身内を増やしていく」ということなのかもしれない。
さて、このDVDを見ていると彼らのライブが常に変化をしていくのがありありとわかる。それは例えば生活のときの「対決」であったり、『ホニャララ』の後半のテンポであったり。これは昔からそうで、彼らのライブは月日がたつごとにどんどん曲のアレンジが変化していくし、たとえ前日とセットリストが同じであっても、少なくともドラムやベースのフレーズは常に変化する。まったく同じことは行わない。「こなれてしまう」ことを拒否続けているのがわかる。
また、「ムダ」というキーワードは、SAKEROCKを知っていくと、幾度の場面で遭遇する。インタビューであったり、音源であったり、公式サイトにすらコンテンツが存在する(COMING SOONのままもう3年ほど経ってしまったが、それはそれで「じゃあそんなムダなコンテンツ作らなきゃよかったじゃないか」というムダとして存在が成立してしまう)。つまり、この考えというのは初期の段階から持ち続け、今なおSAKEROCKを語る上で外すことのできない核となっているものである。初志貫徹。まさに根本敬イズム継承者(根本敬は星野リーダーの趣味嗜好のような気もするが)。
あのとき非常にバカバカしく見えていたハマケンの宙づり演奏は、これまでの2時間を重ねた上で改めて見ると、なぜだかとても感動的に見えてしまう。不思議だ。宙づりになってトロンボーンを演奏している姿を見て「グッ」と来てしまうだなんて、命綱がない状態で超高層ビルの谷間に張られた一本の綱の上で演奏しているだとか、その人物が余命半年にも関わらずそれでも演奏している姿じゃない限りありえないんじゃないか。もちろんハマケンは(実のところは知らないけれど)いたって健康体だし、宙づりとは言え、たとえロープが切れたとしても命を落とすほどではない数10cmの高さだ。では、なぜそんな姿を見て「グッ」と来てしまうのだろうか。それは、この行為が「こなれる」ことを拒否し続けた彼らが苦悩して生み出されたムダの結晶だからだ。その過程をツアーを通して我々は見てしまったからだ。この演出は、なかなかにくい。
今回の監督は、山岸聖太さん。「ぐうぜんのきろく」シリーズでは初監督となる。「ラディカル・ホリデー」同様、固定カメラをとにかくいろんなポジションに置くという独特の撮影方法、更にドキュメンタリー場面で知らないおじさんに積極的にからんでいく姿勢、テロップの出し方はまさに山岸節。しかし今回はそれだけでは終わらない。それが顕著なのがラスト。インタビューが終わり、一瞬メンバー4人が笑いながらはしゃいでいる姿がカットインされ、『インストバンド』に流れていく。このエンディングの流れは、ちょっと恥ずかしいくらいわかりやすく意味を持たせている流れで、「これが、サケロックです」と大声で叫んでいるかのよう。山岸聖太作品でも割と異質な演出だそうで、本人はむしろ苦手な分野だそうな。しかし、とてもそうとは思えない、今までなかなか見たことのない感動作品に仕上がっているように思う。


ところで。SAKEROCKは一見仲が良さそうに見えるかもしれないが、ふとした時に「あれ?このバンド、誰が脱退してもおかしくないんじゃないか?」と感じる瞬間がある。田中馨伊藤大地も、別バンドでも活動している限りその可能性は十分にあるし、マスコットキャラと言われるハマケンだって例外ではない。新たなバンドを2つも立ち上げているし、そもそもハマケンは結成当初はメンバーではなかった。また、星野源が脱退するっていう可能性だって、最近の芝居・執筆・映像関係の仕事を見ていると十分にありえる話。これらの不穏な空気を感じる要因は、映像の中でも語られていた通り、適度な距離を保つという一定の緊張感から生まれるものなのかもしれない。だからこそ、かけこみ亭で半年間毎日顔を合わせて「YUTA」の録音に取り組んでいた結果、野村卓史は脱退してしまったのかもしれない。この過ちを繰り返さないため、彼らは外の世界を積極的に取りこむようになったではないだろうか。暗い地下から抜け出し、井の中の蛙が大海を見るがごとく。そうすることでいろいろなものを吸収し、そしてSAKEROCKに還元していく。また、いろいろなことを経験することによって人とは違うものを作り出そうとする姿勢。その結論としての「ムダ」。各個人インタビューでみんなが言っていたけど、やっぱりSAKEROCKは特殊だし、自由な発想だし、更に今ではそんなバンドが成立するという位置を見つけた。そういう点が、自分が初めてSAKEROCKを見たときに受けた衝撃に繋がってくるのかもしれない。うん、確かに、サケロックの謎が少し解けた気がしました。試行錯誤の連続の上、繰り返される様々なムダ。そして到達した「完成していない」という完成形。完成されていないのだから、やっぱり今後も目が離せない。そんなことがわかったDVDでした。

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今回はとってもマジメな内容になっている、とこの文章を読むと思われてしまうかもしれませんが、全然そんなことはありません。やっぱりライブではバカバカしい演出が炸裂してるし、ツアーの裏側で起きた「熊本ソープ事件」はとんでもないオチがついてしまう。素直に爆笑しました。余談ですが、ブルーシャトーは90分44,000円、その系列店であるエアポート別館は100分30,000円だそうです。