「Loser's Parade」

for さえない日々

タムくんVSグッドラックヘイワ@六本木 SuperDeluxe

タムくんVSグッドラックヘイワと称された今回のライブは、タイ人の漫画家、タムくんことウィスット・ポンニミット祭でした。
会場は六本木SuperDeluxe。会場内は、ステージと客席の段差がほとんどなく、また今回は椅子が用意(と言っても数は限られていたため、大半は立ち見)されていたため、演者と目線はほぼ同じ。ちなみに筆者はグッドラックヘイワワンマンのときにチケットを購入したおかげで整理番号が早く、早々に椅子に座れました。
タムくんのライブは映像では見たことがあった。それは数年前、タムくんがほぼ日で特集になったときにライブがネット配信された。その時に仕事中、こっそりと配信を眺めていた(隠れてイヤホンを付けて)。そのため、どのようなものなのかは理解していたつもりだったが、その時見たものよりも進化を遂げていた。
その前に漫画家であるタムくんのライブというのはどういうものなのか、というのを簡単に説明すると、「自作のアニメに合わせて自らピアノで伴奏をつけていく」というものだ。ちなみにピアノは独学らしい。そのため、稚拙な場面はあるものの、常識にとらわれない演奏は、彼にしか出せない音なのだろう。だいたい、アニメを作った作者が自ら伴奏を、生で付けていくだなんて、そんなのズルイ。自己完結の総合芸術じゃないか。
話は戻して、どんなところが進化していたのかと言うと、まずピアノの演奏が、あのとき聞いたものよりも上達していた。更に、ピアノ演奏以外にギターの弾き語りを行った。曲がはっぴいえんどの『風をあつめて』とビートルズの『Across the Universe』というのも素晴らしい選曲。演奏はまだまだ拙いけど、「歌詞の意味は半分しかわからない」と言いつつたどたどしく歌う姿は、表現の領域を広げている最中なのかもしれない。また、アニメに合わせてピアノ伴奏ではなくアテレコを行うものもあった(また、そのアニメが最高にくだらない)。
面白いものや心温まるものはあるものの、タムくんの描くものって、結構残酷なものが多い。例えば「歌手」というアニメは、結構えげつない描写がある。また、彼の登場人物も、グロテスクと言ってもいいものもある。温かい話に落ち着くけど、そんな汚い面も合わせ持つ。この面は、タムくんの「毒」なのかもしれない。

さて、「ウィスット・ポンニミット祭」だったと言ったのにはワケがあります。グッドラックヘイワが登場したとき、再度タムくんも登場したのです。この時彼が行ったのは、グッドラックヘイワの演奏に合わせてイラストを描いていくパフォーマンス。「せっかくの機会なんで」という意向で実現したこのジョイントは、息の合わない面もあったけど、そこはライブ。事前にある程度の打ち合わせはあったようだけど、演奏される曲に対して様々な試行でパフォーマンスを披露。グッドラックヘイワの二人の下手前にタムくんは座り、どんどん手元のノートにあらゆるものを作り上げ、その模様はステージバックのスクリーンに映し出される。記号を書き連ねてはノートを破っていったり(最初の曲…何演奏したか忘れたペンギン&キャメル)、北斗の拳ケンシロウが登場したり(麒麟坊)、「きたこれ」「これ知ってる」などと言葉で進むものもあり(チョコボのテーマ。最終的には「チョコボの顔ってどんなんだっけ?」と言いつつ伊藤大地の似顔絵を書いて「これでいいや」としてしまう)、数字をどんどん書き連ねていったり(チャイニーズ・スケーターパクチー公園)と、いろんな角度から攻めていく。そして、イラストが描き上がるタイミングをグッドラックヘイワの二人が図っていて、時折伴奏をもう一回ししたりと臨機応変に対応していた。演奏に集中するべきか、描き上がるイラストを楽しむべきか、とにかく忙しかった。本当に贅沢。
さて、個人的に一番感動したのはアンコールだった。なんとSAKEROCKの「インストバンド」を披露したのだ。このときはタムくんはピアノで参加。そしてスクリーンにはもちろん「インストバンド」のPV。あの感動的なPVを、監督した本人が演奏。そしてバックには音源でピアノを担当した本人と、SAKEROCKのドラム担当。この構図がなんとも不思議だった。動画に合わせて曲を演奏するのは、やはりタイミングを合わせるのが難しそうだけど、最後がビシッと決まってました。「最後が決まってよかった!」「本番が一番いい出来だった!」と演奏者も喜んでいた。
また、アンコール最後は「宇宙の犬」。ここでは再度タムくんはイラストレーション。このイラスト、というかキャラを描いてはノートをめくって次の展開を描いていく「リアルタイム制作アニメ」は、タムくんの描くキャラでおなじみの女の子、マムアンの飼い犬マナオがUFOとの交信で宇宙に旅立つという内容で、完全にストーリーがタイトルと連動していて、非常によかった。
もちろんグッドラックヘイワの演奏は相変わらず素晴らしかったのだが、今回はタムくんの印象がとっても強かった。特別なライブを見れて貴重な体験が出来たと思う。誕生日に素晴らしいライブを見れて、いい30代のスタートを切れました。


ところで、この動画の存在をタムくんが知っててびっくりしました。「うれしいよー」と言っていたのもタムくんらしい。