「Loser's Parade」

for さえない日々

星野源ワンマンライブ@東京キネマ倶楽部

来年もよろしく!星野源キネマ倶楽部で2010年総まとめ - 音楽ナタリー
星野源@東京キネマ倶楽部 | 邦楽ライヴレポート | RO69(アールオーロック) - ロッキング・オンの音楽情報サイト
ナタリーさんもロッキンオンさんもライブレポートを書かれてるので、全体的な流れというものはこちらで分かっていただけると思います。なので、ここでは思いっきり主観で溢れた文章を書き殴りたいと思います。


SAKEROCKでは毎年恒例の東京キネマ倶楽部でのライブ。今年はSAKEROCKの2週前にSAKEROCKのリーダーでる星野源が単独でライブを行なった。夏に東京では渋谷クアトロにてワンマンライブがあったので基本的にはそれと同じような感じだろうと思っていたが、プログラム上では同じだったのかもしれないけど、あのとき見たものとはまた違うライブが展開された。それは全国ツアーを経験してバンドが強靭になったためか、はたまた、リーダーも「個人でバンドを従えて歌うこと」に対しての振る舞いを習得したのか。夏のワンマンで見られた初々しさは消え、代わりにどっしりとした安定感があったように感じました。
前回の渋谷クアトロでのワンマンでは「あまりの集客に扉が閉まらなくなってしまった」なんてことがありましたが、今回も会場は満員。そのためキネマ倶楽部という建物の性質上、エレベーター2基がフル稼働しても間に合わず、客入りがどんどん遅れていってしまったそうで、約15分押しでのスタート。1曲目は前回ワンマン時に初披露されて以来、弾き語りで披露されている『歌を歌うときは(仮)』で静かに「真面目に歌うこと」を宣言。
バンドが登場したところで『ばらばら』『夜中唄』『子供』『キッチン』と立て続けに披露。ここまでMCらしい話もなく、冒頭の宣言通り実直に歌い続けていた。そんな緊張がふわっと解けたのは『キッチン』を終えてから。得意のだらだらとしたMCでキネマ倶楽部という空間を友達の家に変えた。ここからは緊張の糸が解けたかのように、明るい曲調のものが続いていく(歌詞の内容は決して明るくないが)。なんだか、完全に“歌手”星野源になったのだなー、と思った。曲が始まる前にギターを爪弾くあたりだとか、堂々と前を見て歌いあげる姿がそう感じさせた。歌うことが恥ずかしいなんて言っていたのはもう過去だ。「表現することは恥ずかしいことだ」とは松尾スズキの言葉だが、それを理解した上での堂々たる歌手っぷりだったと思う。


ここで今回のライブの大事なポイントとなった出来事を二つ挙げたい。まずは『ひらめき』を歌う前のMCのこと。ここでリーダーはSAKEROCKの不遇時代のことを回顧する。「20代前半のとき、ライブをやっても客が1人だった頃、夜中にスタジオに入ってもんもんと朝方まで悩む作業の毎日だった。あの時は『なんて無駄な時間なんだ』と思っていたが、あの時間があるからこそ今がある。今度出るSAKEROCKのアルバム「MUDA」の中に『KAGAYAKI』という曲がある。こういう曲があったからMUDAというタイトルに踏み切れた。」
そうして歌われた『ひらめき』という曲は、今まで聴いてきたものよりも新たな意味を持って聴こえた。

― 輝き 無駄の中に 過ぎた時間に ともってる灯

リンクしてる!と気がついたこの一節に、聴きながら鳥肌が立ってしまった。
雑誌のインタビューで、ミュージックマガジンだと思いますが、「今回のアルバムは『KAGAYAKI』という曲があったからこそシンプルなものになった」と語っている。ちなみに『KAGAYAKI』という曲は今年の頭ぐらいからすでに演奏されていた。SAKEROCKは曲のアレンジを固める際、通常は一度シンプルなアレンジにしてからあれこれ工夫を施すらしいが、この曲はその一番シンプルなものそのままで完成させた。そしてこのアレンジの評判が良かったことから「無理にひねくれようとしなくてもいいのかもしれない」と思うようになったそうな。つまり、『KAGAYAKI』は今回の「MUDA」ができるターニングポイントとなった曲である。『ひらめき』という曲の歌詞でSAKEROCK不遇時代を肯定し、そして『KAGAYAKI』へと繋がり、「MUDA」に集約する。これが分かった瞬間、鳥肌が立ったのだ。まぁ、勝手な想像なので間違っているかもしれないが、そう解釈した。


二つ目はその後。「来年の春にシングルを出します…が、今からやるのはその曲ではありません」という肩透かしのような紹介で披露されたのが、新曲『変わらないまま』。

― さらば 人気者の群れよ 僕は一人で行く

というすごい歌詞で始まったミドルテンポなこの曲は、中高生のときのことを唄ったものだそうな。歌詞の内容は「好きな音楽で耳を塞ぎ、本の世界に生き、夕べのラジオを聴いて笑いを噛み殺し、雨の日も晴れの日も変わらず、わからないまま、輝く日々を待っている」というようなもの。「これでいいわけはないけど 前は見ずとも歩けるよ」「いつか役に立つ日が来る こぼれ落ちたものたちよ」というフレーズが強烈に印象に残っている。これは、自身の中高生時代を肯定した曲だった。
星野リーダーは事あるごとに語っているが、中学時代は腰まで髪の毛が伸びていて暗く、学校カバンには漫画がぎっしり詰まっていて、学校生活に馴染めないような人だったそうな。この時代のことを肯定したこの歌は、巷で溢れる「応援歌」のように無責任に奮い立たせようとしているわけではなく、ただただ優しい目で見守り、その頃を経て今があることを振り返り感謝しているように思えた。そう、やはり無駄な時間なんてないのだ。こぼれ落ちたならこぼれ落ちた分だけ得るものがある。そういえば昔、ピエール瀧伊集院光がラジオで「今、受けたそのひどい体験は、今のお前にとっては受け入れがたいかもしれないが、その経験をしとくと、将来伸びるから!」なんてことを発言していた。もう一度あの曲を聞きたい。でも「もしかしたら今日やって、しばらくやらないかもしれない」なんて言っていたのがちょっと悲しい。


アンコール、というか第2部は弾き語りで自身の曲をやりつくす。途中、「いろんな細かい曲を作りました」と、『おじいさん先生の歌』、『七人は僕の恋人』(女子よ〜男子〜)などを自身で挙げ、客席からも『サッちゃんの明日』、『女教師は二度抱かれた』などが挙げられたも「どんなんだったか忘れちゃった」とかわす。この日は関係者席にファミ通WAVE編集長のルパン小島がいたのが見えたので、密かに『ポルノとルパンの唄』を歌ってくれないかと期待してしまいましたが、もちろんそんなニッチな曲はやらずでした。残念!そういや以前ロッキング・オンの兵庫さんが提案していたのですが、他人に提供した曲を1枚にまとめて出すというのは、本当に実現して欲しい。披露する場所が限られていたけど名曲ってヤツ、『ブランコの唄』『編集者のうた』とかいっぱいあるから。

  • 01. 歌を歌うときは(仮)
  • 02. ばらばら
  • 03. 夜中唄
  • 04. 子供
  • 05. キッチン
  • 06. グー
  • 07. 茶碗
  • 08. 兄妹
  • 09. 穴を掘る
  • 10. ただいま
  • 11. 老夫婦
  • 12. ひらめき
  • 13. 変わらないまま(※新曲)
  • 14. くせのうた
  • en1. インストバンドの唄
  • en2. たいやき
  • en3. 日村さん38才の歌
  • en4. せつないのうた
  • en5. スーダラ節
  • en6. 選手
  • en7. ばかのうた

ライブという集中して唄を聞く場面で、改めて「この人の歌詞はとことん自分のツボに入ってしまう」と感じた。昔に作った曲だけど、『ばかのうた』の「くだらない心の上 家を建てよう」って、なんでそんな歌詞書けるんだろう。インストバンドのギタリストとして知った星野源だけど、今ややることなすことすべてが心の扉をノックしてくる。そんなことを再認識したライブでした。


この日、告知されましたが、来年1月25日(火)に新宿ロフトで「シンジュクアクション 日本のロック 〜アコースティック編〜」というイベントで元HUSKING BEE磯部正文と一緒にライブをするそうです。来年も、唄を歌うことを恐れなくなった星野リーダーの活動は続く。