「Loser's Parade」

for さえない日々

ソクラテスの熱弁@新宿シアターモリエール

告知期間10日、入場無料、カンパ制というトークライブをサンキュータツオマキタスポーツが企画。出演者もさる事ながら、各人のトークテーマが魅力的だったので駆けつけた。

  • マキタスポーツ 「ヒット曲の法則と、作曲の実践 〜『10年目のプロポーズ』〜」 
  • AR三兄弟 「AR三兄弟の趣味悠々ワイドショー」
  • 山下陽光 「山下陽光のチョロズムワールド 〜たとえば「文字」とデザイン〜」
  • サンキュータツオ 「理論上、まだやられていない漫才の実践〜言語学的分析から〜」

この条件で、当日は大入り、立ち見が出るほど。トークライブだと冒頭に言ったけど、トークというかお笑いというか講演会というか講義というか。いったいどのように表現していいのやらわかりません。ただ、笑ったし興味深かった。


マキタスポーツによる「ヒット曲の法則と、作曲の実践」は、音楽を芸にしているマキタ氏らしい講義。黄金のコード進行「カノン進行」*1を駆使し、「トビラ」「サクラ」「ツバサ」を盛りこんだ歌詞、“サビから始まって転調してラップが入ってクリシェコード使って合唱して大サビ入ってAメロを尻切れトンボで”という構成で曲を作った上、歌い手になんらかのオリジナリティーを持たせれば曲はヒットするという、以上の法則を駆使して披露された『10年目のプロポーズ』は、「いかにも!」な曲が出来上がってしまい、会場は爆笑と拍手喝采。講義内容も感心するが、やはりマキタ氏の話芸でどんどん引き込まれていった。頭にサビを置く構成が流行している理由として「着うたなどの影響で最初に掴みたいという意図があるのだろう」と前置きをしつつも「ただただサビしか言いたいことがないから」と断言するのは笑った。「こんなところに来ている特殊なあなた方はわからないだろうけど、ドンキホーテに行ったり東武東上線に乗ってるような人たちはこれがいいんだよ!」という暴論も、ちょっと納得させられたり。


続くはAR三兄弟の川田十夢氏。巷で噂のAR(拡張現実)についての講義。知ってはいたけどなんとなくしか知らなかった世界。手始めに自己紹介として「冷蔵庫の残り物で作るグラフィックデザイン」、「グラフィック的解釈で同一なモノ」と題したネタを披露し、こうして実際のプレゼンとか講演でもアイスブレイク的なことやってんのかな。そして実演されたAR技術についてなのですが…なんとも不思議な世界。これは言葉では全然伝わらないので実際に映像を見てもらうのがベスト。



その他、「理系と文系の物の見方の違い」と題し、以前東京カルチャーカルチャーで行われた「ロマンチック理数ナイト*2で披露したというネタも見れてよかった。最後には「夜中に思いついた」として“タンジブルコンピューター”ではなく“カンジ(漢字)ブルコンピューター”として「朝」の漢字をマーカーとして画面に映すとニワトリの鳴き声だったのが、そこに「娘」を足すとモーニング娘。が飛び出したり、「象」だけでは象の鳴き声だったものに「娘」を足すとエレファントカシマシが飛び出したりという、少し捻ったARも。ARってiPhoneとか持ってないしWebカメラもないので全然よく分かってなかったんですが、楽しそう!


続く山下陽光という人物はサンキュータツオ氏曰く「今年出会った中で一番面白い素人」と評していて、いったいどんな人なんだろうと思っていたのですが、彼の数々のプロフィールを見て気がついた。ていうかこの人オレ、知ってる!修悦体を世に広めた人だ!あ、素人の乱に関わってる人なのか!
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この人が、まーインパクト大だった。マイクも使わず舞台を右往左往。話もとりとめなく挙動不審で、最初は「おいおい、完全にヤバい感じの人じゃないか?」と思っていたのですが、いつのまにやら独特の世界に巻き込まれていった。結局このライブの趣旨である「理論と実践」とは違ったような気もしたが、ただただ圧倒された。内容についてはトップシークレットなのでここには書けません!


最後はサンキュータツオ早稲田大学大学院を満期退学し、現在一橋大学で非常勤講師を行っている異色芸人。専攻は言語学ということで、その視点から語られる「理論上、まだやられていない漫才の実践」。とにかく、「お笑い」を言語学的に研究しまくって、無粋の極み。ただ、これがとても面白いし、文系の自分にとっては興味津々。漫才のスタイルは「会話の内容ずらし」「会話の公準違反」「キャラクター収束」などの分類に分けられる、という話がとても面白く(ただし昭和のいるこいるはどれにも当てはめられないらしい)、特に聞きなれない「会話の公準」というのが印象深い。グライスという言語学者が会話を「4つの公準があるもの」として定義したらしく、「適度の情報量」「真実性」「一貫性」「明瞭性」があると。それを違反しているものが漫才であるということ。例えば「適度な情報量」を違反すると「長いわ!」「短いやろ!」などのツッコミが当てはめられ、「真実性」違反だと「なんでやねん!」になり、「一貫性」違反は「どういうことやねん!」、「明瞭性」違反だったら…えーと、なんだったっけ。とにかく、これらを実践を交えて説明していく。他にも様々な学術的視点から語られ、まだ実践されていない漫才の形の一つに「キャラクター×キャラクター」があると。実践では「理系学者と文系詩人」による漫才が行われたのだが…これって漫才というよりコントに見えちゃうなー、と思った。
最後にはあらゆる漫才師のボケ・ツッコミの量や質のデータを計測し(最も効率のいい笑いの取り方をしていたのは昭和のいるこいるだったそうな)、ある法則を発見したとして実践されたのが「お互いを褒め合う漫才」。最近のおぎやはぎがこの傾向にあるとのことだったが、自分の頭にはシャンプーハットの二人の顔が浮かんだ。彼らも「お互い褒める漫才」という形式なんじゃないかなー。ちなみにこの実践は、先ほど登場した山下陽光を相方に披露され、実際にM-1に出場したそうな(結果は2回戦敗退)。もしかしたらこれまで講義を聞いていた前提があるからなのかもしれないが、荒削りだったけど、確かに面白かった。


とにかく、濃いイベントだった。どれも興味深く、ユーモアを交えて語られる講義、という感じだった。主催者いわく「もう二度とないイベント」「これを全12回で教育テレビあたりで流したい」「元は業界関係者向けプレゼンイベントだった」そうで、とても貴重な体験だったのかもしれない。そしてこの人達は、とにかく異質で奇妙で面白いなー、と思った。

*1:パッヘルベルの「カノン」のコード進行が大逆循環と呼ばれ、ありとあらゆるヒット曲で引用されている。

*2:「リアル脱出ゲーム」首謀者でお馴染みSCRAPの加藤さん主催したイベント