「Loser's Parade」

for さえない日々

部屋 in PARCO劇場(後篇)

さて、DTソングコーナーが終了したところから後篇のスタートです。前篇はこちら

SAKEROCK『Goodbye My Son』の元曲『ここに来る』を演奏し終わったところで再び会場は暗転。続けて点灯するテレビモニターと共に映し出される大久保佳代子。「ちょっと源!いいじゃん!やっぱ若々しさがあるっていい。若さだけがいい。若さがいい。」と執拗に若さを貪る。「あ、それじゃそろそろゲストでも呼んでみますか!」と、ポケットからくっしゃくしゃになったカンペをガサゴソ言わせて読み上げる。「えーと…ペダルスティールの…高田…漣さんです!」と、おぼつかない感じで呼びこむと、高田漣が颯爽と登場。大久保さん、漣さんの登場に盛り上がる。
「やだ、やだちょっと!おしゃれ!失礼ですけどおいくつですか?」とモニターからの問いかけに「37です…」と律儀に答える漣さん。そして食い気味に「やだ!ちょっと!ちょうどいい!」と、いったい何がちょうどいいのかわからないが、何かジャストフィットな手ごたえを感じた大久保さんは畳み掛けるように猛アタックを開始。「あの、彼女とかはいらっしゃるんですか?いや、あの、ちょうど今、彼氏がいなくてー、あ、友達にはよく『一緒にいると安心する』って言われるんですけどそんなこと自分では意識したことがないんですけどーまーなんていうかその人に合わせられるっていうか、でもちょっとエキセントリックなとこもあってー、万引きとか…」と言った途端におもむろに手元にあったリモコンでテレビを消すリーダー。


「若いのがいいって言ってたのに…誰でもいいんですかね?」と漣さん。ここで二人きりトーク。先ほどのDTソング集についての感想を求められると、少々困りながらも「でも、今と変わらない所もあったね」とやさしくフォロー。そして二人でのセッションに突入。まず始めに『老夫婦』。先ほどまでのギター一本とは変わり、ペダルスティールの揺らいだ音が幻想的であり懐古的なサウンドになる。続けて披露されたのは『ただいま』。この曲は細野晴臣作曲、星野源作詞という共作品。音源でもこれらの2曲はペダルスティールが入っているのだけど、2人だけの演奏になると、壮大さが薄れるに変わって切なさが増幅する。ちなみにこの曲は近日リリースされる細野さんの久しぶりのボーカルソロアルバム「HoSoNoVa」には細野さんが歌っているバージョンも収録されている。そちらはもっとコードが単純でカントリー風味が強くなっているらしい。また、星野リーダーは『バナナ追分』という曲で作詞を担当していて、漣さんは「この曲が一番好きかも」と大絶賛していた。ちなみにここで試聴ができます
しばらく二人でダラダラと駄話を繰り広げた後、『スーダラ節』が演奏される。そういやこの曲、最近「ダマしたつもりが チョイと騙された 俺がそんなに もてる訳ゃないよ」のところを力んで歌うようになった。なんとなく吉野さんの影響なのかと思っていたけど、歌詞を改めて見ると『次は何に産まれましょうか』を歌う前に放った「もう女性の怖さを知ってしまった」という発言を思い出す。そして最後に『穴を掘る』へ流れていく…と思ったら、ここで珍しく漣さんがイントロでミス。「いや、いつもと違うキーのポジションで構えてたんで、それでやるのかと合わせようとしたら、いつも通りだったんで…」との弁。これって裏を返せばどんなものが来ても演奏を合わせられるってことですよね。そういや漣さんのコラムで父親(高田渡)と共演しているときに突然間奏が今までの曲調と違ったことをしだすことが多々あった、ということを書いていました。ミュージシャンってすごい。


演奏が終了した後、再びモニターの中の大久保さんが登場。「素敵ー!その変な楽器素敵!えーなんていう楽器なんですかー?ちょっとそれ教えてくださいよー!なので連絡先を…いや、住所だけでいいんで…」という再アプローチも再び電源を切られる。こうして無事に漣さんが退場すると大久保さんが復活。ターゲットがいなくなったことにガッカリして今回の主役に悪態をつく。そして「そうだ、次の曲は私のために歌いなさいよ!私にプロポーズするように!なっ!歌えよ!」と脅しモードな大久保さんに「イヤです!」と屈せず勇敢に立ち向かうリーダー。
ここで歌われたのは、昨年末から披露され、まだ音源化されていない『変わらないまま』。この歌詞、趣旨としてはDTソングコーナーで披露された若気の至りと同じ。何せ「さらば 人気者の群れよ 僕は一人で行く」ですから。だけど10数年経って歌われるものは、苦境から脱した現在進行形の当事者ではなくなっているからこそ「いつか役に立つ日が来る 零れ落ちた物たちが」と希望が見える曲に成長している。漣さんが言ったとおり、芯は変わっていない。
次の曲の前に思い出話を語り始めた。「次に『グー』という曲を演奏するのですが、この曲にはモデルが存在します。この曲を作っているときにお世話になっていたスタッフさんが倒れて、亡くなってしまったのですが、なんとなく歌詞がそっちに引っ張られてしまって。それでこの曲ができたんですけど、先日その家族の方からお手紙をいただいて。『「ばかのうた」聞きました。曲を聞いていると、なんとなくあの人が話しかけてくれている気持ちになります』って書かれていて。でも確か、『グー』のモデルになっているって話はしてなかったはずなんですね。なんか、それがすごい嬉しくて。」そうして披露された『グー』。「死」を扱っているけれど内容も曲調も重くなく、モデルの方を知らない我々でもなんとなく人柄が伝わるような気がした。そして最後に最新シングル『くだらないの中に』でリーダーは部屋を後にしました。


もちろん、それだけでは満足できない我々、部屋の訪問者はアンコールを要求。数分間の拍手後にようやく登場。「すいません、トイレに行ってました。おしっこしてるときに『あれ?中々止まらない!』ってことないですか?それがよりによってさっき来てしまいました。」そうしてアンコールではタムくんことウィスット・ポンニミット作「ブランコ」に捧げた『ブランコ』、そして『くせのうた』を歌ってアンコールは終了しました。
それでも終わらない拍手の中、テレビモニターの大久保さんが最後に登場。「よかったー、源の私に対する思いが伝わってきてよかったー。本日の公演はこれで終了。そんなに求めちゃダメ!明日も同じ時間、同じ場所で待ってるから。」と、ここでBGMとして『ひらめき』の歌なしバージョンが流れ始める。「源って、寂しがりやで、すぐ泣いちゃうから。ブッサイクな顔で。だから皆さん、どうか明日も来てやってね。」あれ?明日って確か…「あら?あらやだ!?売り切れてんの!?えー、ごめーーん!じゃあ来れないねー(にやにや)。」と、いいこと言った風だったのになんという山岸サンタのドS演出!「ほら、ブサイク!最後に出てきなさい!」と言われて最後にまた舞台に戻ってきて2時間強の公演が終了したのでした。


最後に。どこかで星野リーダーが発したこの言葉が強く共感した。
「面白い、と言ったら言葉が悪いですが、歌詞の意味が震災後にまったく変わっていった。」
ちょうど震災直前にリリースされた『くだらないの中に』は、自粛ムードが蔓延する今こそ「くだらないことで笑って」という、ゴッドタンのラテ欄にも使用されたメッセージが込められているように聴こえてくる。『ただいま』の歌詞は、元々は細野晴臣の『はらいそ』へのアンサーソングだったと思う*1のだが、これが復興への希望に聴こえる。『ブランコ』の「できれば未来は見たい」といった歌詞も、それ以外の歌詞も、何かしらの意味を持ち始めた。
だからこそ、この場所で「ばかなうた歌いながら 一緒に揺れようぜ」と、『ばかのうた』を聴きたかったというのはちょっと時期尚早で求めすぎだったのかな、なんて思ってみたりもしました。

1.歌を歌うときは
2.子供
3.キッチン
4.選手
5.茶碗
6.たいやき
7.ばらばら
8.ひらめき
9.湯気
〜 DTソングコーナー 〜
10.だから私は嫌われる
11.家出
12.次は何に産まれましょうか
13.ここに来る
高田漣登場 〜
14.老夫婦
15.ただいま
16.スーダラ節
17.穴を掘る
〜 再び弾き語り 〜
18.変わらないまま
19.グー
20.くだらないの中に
〜 アンコール 〜
21.ブランコ
22.くせのうた
星野源 @ 渋谷PARCO劇場 | 邦楽ライヴレポート | RO69(アールオーロック) - ロッキング・オンの音楽情報サイト
星野源、PARCO劇場“部屋”ライブで童貞時代の迷曲熱唱 - 音楽ナタリー

*1:『はらいそ』は「桟橋からあの異国の船に飛び乗ってAdios Farewell」なのに対し、『ただいま』は「桟橋辿りつくよ遠い島から帰る頃」となっている。