「Loser's Parade」

for さえない日々

SAKEROCK in 日比谷野外大音楽堂

奇跡だし、集大成だし、その先の片鱗も見ることができた。会場全体のあの多幸感をなんと表現したらいいのだろうか。
当日は台風が接近しており、大阪で行われる予定だった「OTODAMA」、静岡で行われる予定だった「METAMORPHOSE」などの野外フェスが軒並み中止を発表。野音ライブの開催は危ぶまれていて、実際に午前中は雨が降ったりやんだりと不安定な天候な上、風もかなり強かった。しかし、なんと開場時間になると雨も風もすっかり止んでしまい、見事な野音日和になってしまったのだった。非常に勢力の大きな台風が近づいて、私の地元の三重県をはじめ*1各地で被害を被っていたのにも関わらず、無事に開催された。そして終演後、再び土砂降りの雨が降りだした。見事に開演時間だけ免れたのだ。これは奇跡としか言いようがない。SAKEROCKは「持ってる」んだと思う。


会場は、台風での中止を免れたということから起こる不思議な高揚感をまとった人たちばかり。すでにお酒を飲んで酔っ払っている人もちらほら。開場して野音内に入ると、ステージのバックには大原大次郎さんが手がける「SAKEROCK」と描かれた大きな垂れ幕(MCで手作りであることが判明)が掲げられており、ステージ両脇にはこれも大原さんにしかだせないタッチのメンバーを模したトーテムポールが立てられていた。よくよく見ると、それは各メンバーの名前の文字でデザインされていた。長年一緒に作り上げてきたSAKEROCKというバンドのイメージが、この舞台で遺憾なく表現されている。これを見ただけで盛り上がらずにはいられない。

予定の開演時間を少々越えたところでメンバーが登場。第一声は星野リーダーの「晴れたー!!」だった。「怖かったでしょ?よく来てくれたよ!ありがとう!初の野音、のんびりやりたいと思いますのでよろしくお願いします!」と開会宣言を行い、ハマケンがトロンボーンを吹き始めた。その曲は『KAGAYAKI』。1曲目はお祭りっぽく派手な曲で行くのかと思っていたので少々意外だった。ハマケンが中盤に少々高い音を外していたは緊張なのかいつもどおりなのか。
続いて同じくミディアムテンポの『Goodbye My Son』。そして少し軽快に、だけど途中で急に暴れだす曲『URAWA-City』へ。この曲の途中でギターがリフを弾く中、他の3人が好き勝手に暴れだす箇所があるのだが、8小節目でちゃんと戻ってくる感じが、犬がフリスビーをがむしゃらに走って戻ってくるみたいだなー、なんてことを思う。そしてこのままの勢いで音源バージョンよりもザラっとしたアレンジに変わった『ホニャララ』まで一気に突っ走る。このアレンジだったらリズムが走った方がテンションが上がってすごく気持ちいい。


ここでメンバー紹介を挟む。「何このフェス日和!最高じゃない!」「本当、風が気持ちいいね〜」「眠れなかった俺の昨日を返せ!」とリーダーとハマケンの会話が始まる。「今日の3時まで“もしかしたら中止”ってこともあったし、西のほうでは被害が大きくて中止になったフェスもあるんで手放しでは喜べないけど、こうやってライブができて本当に嬉しいです!」とこの奇跡を満喫する星野リーダー。「遠くから来てくれた様な人もいるだろうし、“3万くらい払って行ったのにやらない”ってのが可能性としてあって…。だからウチの社長がみるみる痩せていったんですよ。」「あいつ頑張ったよ!」と角張社長をみんなで労うシーンも。ちなみに今回の台風接近について何かの会話で「SAKEROCKは晴れ男なんで大丈夫です!」ときっぱり発言していたのは伊藤名人だそうで、これで完全に伊藤名人の晴れ男が証明された形となった。


続いて不穏な出だしで始まる田中曲きってのプログレナンバー『Hello Põ』がネジで動くおもちゃが壊れて踊りまくるかのように轟く。ギターから始まる『FUNK』では、定番となった曲間のハマケンコーナーが。在日ファンクでの活動もかなり活発になったためか、ファンクダンス、JBステップをこれでもかと発揮。いつもはここでダラダラと引っ張っていうのだけど、今回は割りとシャープにまとめられたような気がする。うん、これくらいがちょうどいい。
そして『Green Mockus』に繋げようとするも…ここで浜野さんがボーン一発目の高音を華麗に外してしまう。「120回ぐらい練習してるのに!」とリーダーからツッコミが入り笑いやヤジが起きるのもご愛嬌。やり直しの一発目もちょっと外し気味だったような気がしたけど、蛇行運転しながらなんとか持ち直していました。
「風が気持ちいい!」と野音を満喫しつつ、「ちょっと昔の曲をやります。最近やってなかったね、このバージョンで。」と言って始まったのは『ラディカル・ホリデー』!テンポを落としたバージョンじゃなくて音源と同じアレンジ!個人的にこのバージョンで聞いたのは、多分2007年年末のキネマ倶楽部以来のような気がする。3年半ぶりに聞いたこのバージョンは、やっぱりかっこいい。ギターが、メロディーを弾きながらも6弦でベース音も同時に出してんですよね、あれ。あれが真似したいんだけど技術がなくて弾けなくてねー、ゴマカしながら耳コピしたなー、なんてことを思いながら熱心に弾いている手ばっか追いかけるギターキッズになってしまった瞬間だった。


続く『老夫婦』は星野ソロ曲としても人気の曲で、第三者的視点で描かれるこの曲の歌詞は、インストではおじいさんの目線のようでとても幸せそうにボケたフリをしているかのようで軽やかに。その軽やかなままドラムが軽快なリズムを叩きだして始まるのは『穴を掘る』。今回は指定席ということもありステージがとてもよく見えたのですが、改めて「うわ!伊藤名人、こんなにサンバ調のドラムをシャープに叩いてたんだ!」というのが一望できる。
と、眺めていたら曲終了後のブレイクで浜野・星野が「「やっぱ好っきゃねーん!!」」とまさかのたかじんネタぶっこみ!!懐かしい!そして二人でハモりやがった!何を昔よりパワーアップさせてるんだ!なんか『ラディカル・ホリデー』といい、たかじんネタといい、「songs of instrumental」リリースのあたりを思い出した。あ、広島に住んでた時だったから福岡の博多百年蔵まで見に行ったなー、などなど。
ここで喧騒を冷ますかのように始まった『グリーンランド』。そして『ちかく』へと繋げ、『今の私』と、切ない曲を聴かせる。ちょうどこのあたりから段々日も暮れだし、セミの声から鈴虫の声へと移り変わっていき、雰囲気はバッチリ。そこに俗世間から解き放つかのように『七七日』をぶつける。


ここで星野リーダーがギターからマリンバに装備をスイッチ。それに合わせてキーボードのサポートとして星野ソロも手伝っている横山裕章さんが登場。ハマケンに「ウォーミングアップしたほうがいいんじゃない?」と言われて叩き始めたのがマーティン・デニーの『SAKE ROCK』だったのに興奮していたのはオレだけだったのだろうか。ウォーミングアップも終わって演奏し始めたのは『最北端』、『会社員』、そして『千のナイフ妖怪道中記』。『会社員』が始まった時の客席の「待ってました!」感が溢れる盛り上がりはすごかった。更にそれを『千のナイフ妖怪道中記』のマリンバ連打とタンバリンによって上回らせてもらったこの高揚感。
「それでは、ここでもうひとり…」と、ここで更にゲストが紹介される。登場したのは…キセルから辻村豪文!袖からお兄ちゃんが見てるな〜とは思っていたがまさか出演するとは!6人体制で演奏されたのは、新曲『エメラルドミュージック』!この曲はこの夏に開催されたバナナマンの単独ライブ「emerald music」のオープニングテーマで、タイトルはこれを冠したもの。バナナマンのライブを見に行った人から評判は聴いていたのですが、噂通りのかっこいい曲!辻村兄の、キセルでは見せないジャズマスターでのジャキジャキコードストロークで始まり、シンプルなエイトビートと高速マリンバによるAメロ、トロンボーンに主役がバトンタッチされるBメロを経過し、最終的にマリンバトロンボーンのユニゾンフレーズへと変化していく。まさに「MUDA」以降のSAKEROCK!音源化が非常に楽しみ。しかし今後この曲をライブで演奏する機会はあるのだろうか、とちょっと不安になる。この曲を演奏するには鍵盤とサポートギターが必要で、しかも辻村兄はこの曲だけのためのゲスト。野音ワンマンっていう特別なライブだからできたのかもしれない。でもまた聞きたい!


再び4人に戻ったSAKEROCK、「マリンバは疲れるんだよ」とここでMCタイム。「馨くん喋って!」の声にここで田中名人がフューチャー。更に「それじゃあ、いつもは喋らない二人で喋ってもらおう」とのことでリズム隊での会話がスタート。「馨くん、せっかくiPadを買ったのに本みたいなケースに入れてるね」「そうだね」「あれは、電車の中で周りに本だと思わせておいて、実は電子機器なんだぜって思ってんの?」「あの…電車でiPadを…開けないよね、僕なんかは」ここで会場爆笑。さすが田中名人です。
ここで4人での会話に移り、田中名人に電車内でiPadを使用するように薦めていました。ちなみにリーダー以外の3人はiPad所有者で、ハマケンに至っては「iPadツイッター見て、iPhoneでもツイッター見てて全然意味ないよね」と伊藤名人に呆れられる始末。更には「全然アップルのことを知らないくせに『スティーブ・ジョブズ辞めるんだって、アップル終わったな』って言ってて馬鹿じゃないかと思った!」とリーダーから底の浅さを暴露されるハメに。
小学生からMacに憧れていて「あー!どう計算しても100万超える!」と専門誌を読んでは頭を悩ませていたリーダー、そんなリーダーに憧れていたために「源くんが使ってるからMacにしただけで、他に意味はない!」と星野源フォロワーを宣言。伊藤名人からも「源くんがFrancfrancのベッドを買ったから対抗して無印でベッドを買ったんでしょ?」と証言が。と、ここで正気に戻ったリーダーが話を立て直し。節電のためか周りが暗いために「今は午前2時くらいの気分で、もう帰れないと思って!」とラストスパートに向けて深夜的演奏がスタート。


深夜的テンションで始まったのは『モー』。徐々にみんなの体が暖まってきたところで普段よりも少し長めのイントロで始まったのは『慰安旅行』!そして更にテンションを振り切るかのように『WONDER MOON』へと雪崩込む。
2000年10月30日結成のSAKEROCKは今年で12年目を迎える。「こんな変なインストバンド野音でできるだなんて…」と感無量のリーダー。「伝説って言われる場所だけあるね」と浜野。「伝説は今から作るんでしょ?」と、最後の『生活』の準備へ取り掛かる。「今まで自身がないときは裸に頼ってきた…。今日も頼る!」とおもむろに脱ぎだす浜野さん。「100%頼れ!お前の二の腕を見せつけてやれ!」と煽るリーダー。あ…浜野さんちょっと痩せた!お腹出てない!「言葉はリズムからできている!音からできている!行くぜ!」と対決を挑む浜野さん。そのコトバの内容は…あれ?変だな?全っ然思い出せない。とりあえずいつもみたいにダラダラ伸ばさず、コンパクトにまとめていたっていう印象だけが残ってます。こうして相変わらず無駄な前置きを用意して演奏された最後の曲『生活』は、観客はもちろん、演奏者も含めた大いなる多幸感に包まれていた。


メンバーが一旦はけた後、しばらくするとカクバリズム代表取締役社長の角張渉が登場し、みんなへの感謝の弁を述べる。そのあとアンコールで登場したメンバーは…わー!白スーツ姿だ!久しぶり!横山さんも登場してアンコール1曲目は『インストバンド』。この姿でこの曲…感動せざるを得ません。あんなにうるさかった酔っ払った観客も、このときばかりは静かに音に身を委ねていました。そして続く星野ボーカルによる『スーダラ節』では「もっと歌えー!!」の煽りで野音中が大合唱。なんだか…すごい光景だった。今回のライブ、結構な数のカメラが入っていたので、DVDになることは間違いないと思うのですけど、そのDVDのハイライトになるようなシーンでした。


再度角張社長が登場し、12月に東名阪ツアーを行うことが公表される。そしてダブルアンコールに登場した彼らは、トーテムポールをモチーフにした新作のTシャツに身を包んで登場。改めて感謝の意を述べ、「このやろう!2011年、無駄だっただなんて言わせねぇぞこのやろう!!」とリーダーが強く宣言して『MUDA』を演奏。
無駄じゃない!という意味での『MUDA』というこの流れがとてもよくていいエンディングだったのだけど、この『MUDA』で事件が発生した。曲の最後らへんで、今までステージを飛び交っていた蝉が、なんとハマケンの顔面に向かって体当たりをしたのだ!思わずのけぞって演奏が途切れてしまうハマケン。気がつかない人も多かったらしいけど、見やすい位置にいた私はこの日、一番笑った。一番「持ってる」のは、ハマケンだった。よりによって最後の最後に、そしてハマケンにダイブするあたりが、奇跡としか言いようがなかった。


奇跡だし、集大成だし、その先の片鱗も見ることができた。会場全体のあの多幸感をなんと表現したらいいのだろうか。そんなことを思っていたら、ライターの松永良平さんがこのライブを見事に言語化されていた。
今夜 すべてはスーダラに還った - mrbq(松永 良平 blog Q)
わかっちゃいるけど、やめられない。

  • 1. KAGAYAKI
  • 2. Goodbye My Son
  • 3. URAWA-City
  • 4. ホニャララ
  • 5. Hello Põ
  • 6. FUNK
  • 7. Green Mockus
  • 8. ラディカル・ホリデー
  • 9. 老夫婦
  • 10. 穴を掘る
  • 11. グリーンランド
  • 12. ちかく
  • 13. 今の私
  • 14. 七七日
  • 15. 最北端
  • 16. 会社員
  • 17. 千のナイフ妖怪道中記
  • 18. エメラルドミュージック
  • 19. モー
  • 20. 慰安旅行
  • 21. WONDER MOON
  • 22. 生活
  • Wen. MUDA


グッズ売り場付近に置かれていた蚊取り線香。緑が多く蚊に刺される人が続出していたため、どうやら角張社長が急遽用意したものらしい。みんなから愛される所以はこういうところからですね。

*1:実家は津市なのでまったく大丈夫でした。