「Loser's Parade」

for さえない日々

苦役列車

うわー、本当に嫌な奴だな〜って思ったけど、何日か経って振り返ってみたら、自分にも貫多に通じるところはあるんじゃないかとか考えてしまって、もう。

話題の西村賢太原作の「苦役列車」。監督は山下敦弘。やれ「西村賢太が映画をdisってる」だとか「前田敦子起用」だとか「客入りが厳しい」だとか報道が出てましたが、そんなもんは放っといて。


主人公の北町貫多(森山未來)は中卒の19歳で日雇い労働者。家賃を踏み倒してもらった金を酒や風俗で使ってしまう毎日を過ごしていたが、職場に同い年の専門学生である日下部(高良健吾)がやってきて、次第に二人は打ち解けていく。そんな中、古本屋のバイトをしている康子(前田敦子)に惚れていた貫多は日下部を間に立てて見事友達関係となっていき…というストーリー。

まず、北町貫多が不穏なオーラを発し続けている。手鼻、痰吐き、嘔吐、食事方法、物を食べているときに口を開けて離すなどなど、行動がいちいち汚い。他者とのコミュニケーションも、空気を読まずに突っ走ったり、間合いがわからなかったり、感情むき出しだったり。おかげで全体的にずっと嫌な空気が漂っていた。

完全に「近寄りたくない奴」。だけど、自分にも通じるようなところがあると感じたのは、コンプレックスが強くて周りを敵視していたり、人の優しさに気づかなかったり、自分の欲望の赴くまま後先考えずに行動して迷惑をかけたりって…いや、これって20代中盤くらいのオレじゃないか?と気がついてしまったため。

仕事が忙しく、いつも深夜に帰ってきていたことと、今となってははっきりと「適正ではなかった」と思える営業職がどんどん辛くなってきて精神的に参りだした社会人3年目。あの頃は将来のことがまったく見えずに、ただただ日々を過ごしているだけだった。休みになったら酒を飲んで管を巻く。学生時代からの友人はいたものの、転勤になるといよいよ周りに友人もいなくなる。当然、彼女などいない。
あのときの自分は、もしかしたら北町貫多のような日々を過ごしていたのかもしれない。唯一のはけ口は、このブログだったかも。あのときにTwitterがあったらもっといろんな人と交流できたのかなー。当時のmixiは現在のfacebookに感じる「周りが眩しくてどんどん孤独の闇が襲い掛かる」状態で、反逆の目で見ていたし。

見終わった後になんだかそういう過去と重ねあわせてしまったため、余計に映画では最後に少しの希望が見えて助かった。原作では救いようのない話らしいので、それはちょっとキツい。いや、だからこそ面白いのだと思うけど。


森山未來の達者っぷりはもう言わずもがな。とても昨年に「モテキ」の藤本幸世だった人とは思えない。みんなが指摘しているけど、サブカル女に対して「田舎モン!」などと罵声を浴びせるシーンは、罵声を浴びせられる側を「モテキ」では演じていたという構造が面白い。あと前田敦子、すごい良かった。「AKB48前田敦子」という強力な看板は感じさせられず、とっても不思議な魅力を放っていました。この映画内の役柄でもそうだったけど、知らない人にどんどん着いていっちゃうような危うい娘、というか。急にAKBとしての前田敦子が気になりだしました。
そしてマキタスポーツ。この人がこの役をやるっていうのは、この芸人のことを知っていれば知っているほどにハマリ役だというのがわかる。先日フジテレビ系で放送された「お笑い芸人歌がうまい王座決定戦スペシャル」にてマキタさんが出演し、見事決勝まで勝ち進んでついに!というところまで上り詰めたシーンは、まさに苦役列車のような展開でした。

http://www.kueki.jp/index.html
あと、山下監督って、急に映画的といっていいのかよくわかりませんが、現実的な話からいきなり、え!?って演出をしませんか?たまたま自分が山下作品で印象に残っているのが「リンダリンダリンダ」のラモーンズと瀧が登場するシーンと「ばかのハコ船 」のマンホールのシーンとか。今回だったら落とし穴に落ちるシーンですね。