「Loser's Parade」

for さえない日々

サッちゃんの明日@三軒茶屋シアタートラム

久しぶりにイヤなモノを作ってしまった。見る側がリタイヤしないことを心からお祈りします。
松尾スズキ(パンフレットより引用)

松尾さんの芝居は見るといつも困ってしまう。なんだか試されているような気がするからだ。「これを見て、何を思う?」と。自分が何も考えを持たない、とても薄っぺらい人間だというのを目の当たりにしてしまうので。
舞台は下町、主人公は蕎麦屋を切り盛りしている30手前の女性。ここまでは極平凡なのだが、そこから追加要素として重なるものがいろいろとあり…って感じ。まー、とにかく後味はとっても悪い。「障害者」「クスリ」「北朝鮮」「宗教」など、松尾作の真骨頂。今まで数本程度ながら映像で大人計画本公演を見てきているのでその世界観はなんとなく知っていたつもり。その感覚から言うと、過去にこういった素材を扱うとき(「ファンキー!」とか)よりかは、軽く感じられた。それは、もしかしたら「なんだか未知のもの」というよりも「意外と身近に起こりうるもの」だったからかもしれない。それはもっと怖いことなのだけども。設定がいわゆる「朝ドラにありがちなもの」となっているために入りはするっと、しかし若干の不穏な空気を感じながら突入できる。しかし、どんどんなんだか居心地の悪い雰囲気になっていき、ある場面から一気にどん底に陥れられる。
今回の主人公は鈴木蘭々が演じているのだが、これがとてもよかった。彼女が持っている“天真爛漫”“純粋”というキャラクターが遺憾なく発揮され、それが中盤から、だからこその裏切りに続く。また、なんだか似合ってしまうのです。「ああ、そういや彼女は“闇”を背負ってそうだな」と。申し訳ないのだけれど。最初は大人計画の独特な雰囲気に一人浮いてる感じを持ったのだが、それは別に演技がとかではなく、役柄自体がちょっと浮いているキャラだったのです。
各個人のことを評価できるほど芝居を見てきたわけではないのですが、最近新たに加入したサモ・アリナンズ小松和重氏の迫力はスゴかった。あの身のこなしはものすごかった。不自然になろうものが自然に見えてくる。また、星野氏は本来ならとてもイヤな役ではあるものの一つの武器である素朴さ加減でマイルドになっていたので、いつか素朴のかけらも見当たらないような極悪な役をやっているのを見てみたいと思っているのだがいかがだろうか。あ、宮藤さんのあの髪形や飄々とした凶器も怖かったし、猫背さんの思い切りやツッコミや溺れていくさまもよかったし、皆川さんが今回のえらくカッコイイ役回りになっていたのもよかったし、今回初めて拝見した家納さんの独壇場は圧巻だったし、もちろん松尾さんから発せられる不思議なオーラも独特だった。…結局全員言っちゃったけど。
今回は結構劇場が狭かったからこそ、こじんまりとした下町の感覚が伝わってきた。また、終盤に訪れるスクリーンを使った演出なども効果的でした。そして…ラストですよね。「いろいろあるけど、とりあえず明日のために…」っていうメッセージを残したままバシッっと終了。カーテンコールもありません!というぶった切り。とても時間が短く感じた。彼女たちのその後は気になるけれど、それでも日常は続いているんだろうなぁ。なんて感じてしまった。


「サッちゃんの明日」