「Loser's Parade」

for さえない日々

ホニャララ/SAKEROCK

ついに出ました。サケロックの3枚目のフルアルバム。3枚目と言っても、ミニアルバムやサントラを含めると実に11枚目。2000年結成だから単純に年に1回以上。アルバムに加えシングルやDVDも加えるとその生産能力は極めて高い、と勝手に思っている。リリース契約をしているメジャーレーベルでもないのに、どんだけ貪欲なんでしょう。

というわけでSAKEROCKの「ホニャララ」です。購入からずっと聞き込んできたら、いろいろと書きたいことが溢れてきて全然まとまんなくなってしまい更新が滞ってしまいましたが、中々にホニャララしてる内容です。まずはそのジャケット。最早専属デザイナーと言ってもいい大原大次郎氏渾身の作品は、一見普通の鉛筆がっぽいが、実は刺繍であった事実。どんだけドMなんだ、あまりにも緻密すぎる。そして前作の「songs of〜」から制作し始めたブックレットが今回はさらに増量(なんかスナック菓子みたいだな…)。「H」で共に連載し、「H」と共に打ち切られてしまった仲の梅佳代氏撮影の気の抜けたグラビアに始まり、天才天久聖一のあまりにもヒドすぎるインタビュー。

星野「そう。今回はすべてがインスチルメンタルなんだ」
伊藤「そう。インチュチュルメンタル」
田中「インシチュルミンタルさ」
浜野「いんつつるめんたつ!」
―誰ひとり正確に言えてないけど?

素晴らしすぎる。電気グルーヴが「J-POP」を発売した時にTV Bros.に掲載されたインタビューに続く傑作。そして続く対談では各メンバーそれぞれ話したい人と話したいことをしゃべる企画だが、なんと言っても伊藤大地名人とドラム収集家の深田有一氏の対談がおもしろい。まったくわからない内容で、逆に面白い。あと浜野隊長と和光大学堂前教授の対談は浜野さんのマジメさが際立つ内容。ちなみに在学当時のゼミ合宿の写真を発見したので、興味のある方はこちらを(2004年度冬合宿参照)。ハマケンのエヴァンゲリオンの踊り、足先がハマケンしていたそうです。そして歴史を感じざるを得ない松永良平氏のライナー・ノーツは、変ったようで変わったのは周りの環境だけで本人たちは全然変わっていないことを証言しています。あとこのブックレットの最高傑作と言えば御存知小田扉先生のマンガでしょう。なんか本当にメンバーの普段ってこんな感じのような気がしてくる。

さてさて、どうしても目が行きがちなブックレットの話はこのへんにしておき、肝心の中身です。星野リーダーが「今回はポップスを目指した」と言っていましたが…なるほど、これがサケロックなりのポップスなのか、という感じ。アルバム全体を通すと、最初に勢いがいい曲が固まり、どんどんしんみりした感じに流れていく印象。曲順はDRY&HEAVYやEGO-WRAPPIN'を手がけるエンジニアの内田直之氏の案だそうで。シングルで既出の『会社員』に始まり、浜野隊長珠玉の名曲『菌』、そして『ホニャララ』と一気になだれ込む。『菌』のテンション激アガリ曲は非常に素晴らしいけど、それにしても『ホニャララ』のなんとも変な曲たるや。ヘッドホンで聴くとよくわかりますが、ベースが左、ドラムが右と、音がかっちり分けられている。おまけにベースがやけにライン直っぽいブリブリの音だし、シンセの鍵盤タッチ音まで入っている。バンドなのに妙にアコースティックぽい。バナナマンライブで聴けたナンバーガール調の『バナナを蹴る』(旧題)からベクトルの変化具合に妙に感心してしまう。続く『老夫婦』は星野ソロ作からの発展バージョンで、サケのライブではおなじみの曲ながらどのような歌詞が付けられているのか是非とも弾き語りでも披露していただきたい一品。『餞』は田中名人が得意とする“変拍子なのになんだか壮大で感動的”というプログレ魂炸裂な曲で、『やおや』は星野リーダーが得意とする“既視感溢れまくりで牧歌的”という昭和魂炸裂な曲。『最北端』はペンギンプルペイルパイルズの“ゆらめき”の劇中曲として提供した浜野隊長の、こちらもライブではおなじみの曲。そしてタイトルを見ただけで非常に気になっていた『千のナイフ妖怪道中記』ですが、『千のナイフ』と『妖怪道中記』が見事にミックスされていたのが実に爽快。大半の人が『千のナイフ』を知っているとは思うが、やはり我々世代は『妖怪道中記』(もちろんファミコン版!)の方が思い入れがある。難しかったなぁ、あのソフト。ナムコ最盛期の傑作です。そこに続くはすっかりオリジナルアルバムでも曲提供ができるようになった第3のソングライター浜野隊長の『におい』。外見だけ見ているとどこにこんなロマンティックなメロが出てくる要素があるのか…と思ってしまう一品(失礼)。そして夕方以降、主に会社帰りにiPodで聴くと実に感動的に聴こえてくる『灰空』。広いスタジオで一発録りしたために奥行きがあって緊張感があり、ストリングに加えてスタジオの残響が大きいため非常に壮大。実に名曲。そして『今の私』に続き、“繰り返される諸行無常”的な『エブリデイ・モーニン』。星野リーダーが奏でるトイピアノが非常に効果的で、終わりでもあり始まりでもあるような、まどろみの中にいる印象で締めくくられます。


こうして全体を通して聴いてみると、星野リーダーがギターに加えてマリンバを味方につけたという変化もあるけど、実はハマケンのトロンボーンにミュートを使いだしたっているのも曲の幅が広がった一因である印象があります。ギター、ベースはエフェクターやアンプの設定でいくらでも音色を変えられるし、ドラムはセットそのものを変えたら音がそれだけ変わっていく。でもトロンボーンについては吹き方を変える程度でしか変化を出せない。それが魅力でもあるのですが、そこにさらにミュートを取り入れたことによって直接的に音色を変える、ボリュームを押さえることができるなどの幅が広がり、それが今回に反映されているんじゃないでしょうか。なんか、そんな印象を受けたなー。


さて、このアルバム、リーダーも書いてますが、タワレコチャートでも上位を獲得しているとのこと。来週水曜日のオリコン発表ではどこまで行っているのやら。確か『songs of〜』は20位でしたっけ?どうなんでしょうねー。あとオレも最近気づいて笑ったんですが、ニコニコ動画で上げられた『ホニャララ』のPVがNHKに削除された事件。ある意味伝説を作ったかもしれないですね。さて、このアルバムを踏まえたワンマンはいったいどんな愉快なことになるんでしょうか。楽しみです。


あ、そういやたまたま立ち読みしていた「ぴあ」にリーダーが1ページどーんとインタビューされてて(写真はおそらく梅佳代撮影の完全に気の抜けた顔)ビックリしました。あとNew AudiogramにインタビューPPPP主催の倉持裕氏との対談が公開されてます。


ホニャララ
ホニャララ
asin:B001F6ZGOS