「Loser's Parade」

for さえない日々

部屋 in PARCO劇場(前篇)

星野さんのお部屋にお邪魔してきました。
PARCO劇場で行われた『くだらないの中に』リリース記念のワンマン弾き語りライブ。チケットは発売日当日にぴあに並んでなんとかゲットできましたが、即完売という人気ぶり。PARCO劇場という場所で、今回は全席指定の着席スタイル。ゆったりと見られると同時に、劇場なのできっと何かしら仕掛けてくるのだろうな、などと構えていたのですが、初っ端からあんな仕掛けがあるだなんて…。もう開催から1週間経ってしまいましたが、今回はその模様を2回に分けてレポートしたいと思います。

会場に到着しステージに目を向けてみると、中央には譜面台、椅子、ギター、モニター、マイク。上手には40インチくらいのテレビモニターがあり、その前には、誰がゲストで出てくるか分かるだろ?と言わんばかりにセッティングされたペダルスティール。下手に目を向けると…こたつ。そしてノートと別のギターがセッティングされている。「部屋」だ。まさに部屋の様相を呈している。開演時間の19時に近づいたところでアナウンスが流れ出す。その声の正体は、星野源本人。本人が舞台袖からアナウンスを行っている。なんだか大人計画の開演前アナウンスを松尾スズキ本人が行っているのを思い出す。「それでは、もう少々お待ち下さい」と行ってアナウンスは終わり、しばらく経つと会場が暗くなった。いよいよだ。
暗くなった会場内では、蛇口をひねる音や、窓を閉めたり歩いたりする生活音が響きだす。セッティングされた部屋に生活音がプラスされていよいよ現実味を帯びてきた。と、ここでステージ上手に用意されていたテレビモニターが点く。流れだした映像には、白い背景と共にパイプ椅子が用意されている。そして誰かがこのパイプ椅子に座って…って、えっ!大久保さん!?オアシズ大久保佳代子だ!なぜに!?「ようこそ、星野源の部屋へ。今日は大勢の方に来ていただいて、感激です。申し遅れました、大久保です。」突然の大久保さん登場に会場は笑い混じりのどよめきが起きる。
会場の動揺とは無関係に映像は流れ続ける。「本日の講演は、PARCO劇場星野源の部屋に見立てるという設定の…プレイです。」「若い男子の部屋。なんて耽美な世界でしょう。(タオルを手に取り)もしこの何の変哲もないタオルが、そこそこ若い男子の部屋に落ちていたら…」と言ってタオルをおもむろにむさぼり始める大久保さんの野蛮な行動が何カットも挿入。山岸サンタと大久保さんの奇跡のコラボ映像。「今日は源の素敵な歌を、そして源の恥ずかしいところ。恥ずかしい部と書いて“恥部”を堪能してください。」と肉食女子による艶めかしいアナウンスがあったと思ったら、「…まーでも、あなたたちほど源には興味はないけどね。ほら、源って、なんかカサカサしてるっていうか、ミイラ?ミイラ男子?なんか顔もぼんやりしてるし!私あんなの興味ないんだよねー。」と、いきなりの突き放し!そして「おーい!ぼんやり君!そろそろ出てきなさい!」という横柄な紹介で登場した、部屋の住人、星野源。映像の大久保さんと多少のクロストークを交え、公演はスタートしました。ちなみに今回大久保さんが抜擢されたのは、実は10年ほど前に同じ演劇のワークショップに参加したことがきっかけだそうで、ずっと一緒に仕事をしたかったそうです。あと、「ラディカル・ホリデー」内のキャスターでお馴染みの生活純子こと小林由梨さんが只今産休に入られている、という要因もあったでしょう。見事な人選です。


最初に度肝を抜かれたところで弾き語りの始まり。始めには定番の『歌を歌うときは』で、今回の弾き語りワンマンに対する決意を宣言するかのように歌う。続けて『子供』『キッチン』と、今までの狂騒がウソのようにしんみり。そして久しぶりに聴いた『選手』。SAKEROCKでもインストで演奏され、ソロではCDブック「ばらばら」に収録されている曲。この曲のように一種の物語のような歌詞が書かれるのも、星野ソロの魅力だと思う。それは次に披露された『茶碗』でも発揮。「老人もの3部作」と自らが称するように、老人を主人公とした物語。過去の歌詞の物語、例えば先の『選手』は「田舎に帰る野球選手」を題材にし、どこか淋しげなものだったのだが、それに対して『茶碗』は「年老いた夫婦」が題材。幸福な風景が浮かんでくる。この変化は、そのまま作者自身の心境の変化を表しているのだろうか。
eastern youthの吉野さんが、僕のジャンルを“デスロハス”と命名してくれました」と、ここ最近のライブでは定番となっているMCを挟んで、その吉野寿と共作した『たいやき』、初期の代表曲『ばらばら』、ひとつのメロディラインと不協和音のリフで構成される『ひらめき』と一気に畳みかける。そして「今日、初めてやる曲です」という前置きで始まったのは、シングルのカップリングとして収録された『湯気』。バンドサウンドでは今までになく湿った音が印象的だったのが、弾き語りではまた違った湿り方をしている。ここで思い出したのが、先月スペースシャワーTVの「スペシャエリア」にゲスト出演したときに語ったこと。「『湯気』は、自分なりのヒップホップを意識して作りました」という言葉。そのときはあまりピンとは来なかったのだけど、弾き語りになって、骨組みだけになって初めて理解が出来た。2拍ごとに右手で弦を叩いてビートを強くしている。そういえば歌詞も語尾を統一したり韻を踏んでいる。解体されてようやく星野流のヒップホップであったことを理解できた。


初披露の曲が終了したと同時に上手にあるテレビモニターが再び点灯。大久保さんが拍手をしながら姿を表した。ふんわり流れていた会場の空気は、再び乱されることとなる。「いい曲歌うじゃないあんた!」「でも…なんか暗い曲ばっかだねー。なんか…一人暮らしのおじいさんが死んだ曲だとか(「そんな曲歌ってない!」と突っ込むリーダー)。」「もっとなんか若さがほしい!そうだ、あなたの童貞時代の曲を歌いなさいよ!そっちにこたつを用意しているから、そっちに行きなさい!そして恥ずかしいところをみんなに見てもらいなさいよ!」そして促されるように、下手に用意されたこたつに移動。なんと、これから「今までほとんど披露したことがない曲をさらけ出していく」そうな。次回作に向けて曲作りをしている過程で、昔を振り返り自分なりのフレッシュさを見つけようとする試みだそうな。ちなみに高校時代の星野少年は誰にも聴かせない曲を作ってはMDに録音し、リリースしていったそうな(リリースと言っても人には聴かせない)。それって…丸っ切りみうらじゅんと同じじゃないか!と誰もが心のなかでツッコんだに違いない。サブカル人気が強い人って、こういう方向に言っちゃうんでしょうか。こうして、聴いてる側も心苦しいコーナーの幕が開けたのでした。


まず始めに披露された高1のときの曲、『だから私は嫌われる』。タイトルでもう苦笑いしてしまう。そして歌詞は…「嫌がられるのが怖かった」「みんなに気を使っていた」「目立たないようにしていた」、そして「開き直ることにしたよ、今から」「いつかきっと自分のことをわかってくれる人がいるはず」。これをメジャーコードをジャカジャカ弾いて歌い上げる。そして最後はなんと人力フェードアウトで終わる(MDを聞き返したらそうなっていたらしい)。もう、聴いてられない。素人参加番組に出演し自己陶酔しながら弾き語りしちゃっている高校生の曲を無理やり見させられている感じ。聴いているこっちがどんどん居たたまれない、こっちが逃げ出したい気持ちになってくる。歌詞は本当に救いようがない。曲を歌った後、「歌詞が説明しすぎ、全力で自分を励ましすぎ、そしてフェードアウトがダメ!」と星野少年にツッコミを入れる星野青年。続いて高2のときの曲、『家出』。今度は爽やかっぽい曲調に乗せて、自転車に乗って隣町まで走って行って「忘れたい あんなこと」と言う歌詞。これまた聴いているこっちが何故か罰ゲームを受けているような気分になる。「曲がありきたり。そして傷を負っている“風”、家出したことないのに。『忘れたいあんなこと』ってどんなこと?やっぱりダメなのはフェードアウト!」。
「ここで箸休め的に…これはもう女性の怖さを知った後の、25歳くらいに作った曲です」と言って始まったのは、なんと『次は何に産まれましょうか』。自主制作盤の「ばかのうた」に収録されている、劇団「猫のホテル」の公演(多分「ウソツキー」)のために作られた曲。作詞は千葉雅子さん。まさかここでこの曲を生で聴けるだなんて思ってもいなかった!オレはこの曲が歌われるときをずっと待っていた!今までの曲郡に比べ当然のようにクオリティが高く、今まで苦笑しかできなかったからこそ余計に感動した。メロディ、古びたギターのタッチ、歌詞と3拍子揃った名曲!「ちゃんとこの曲を形にしたい」って言ってたので、是非とも今後も歌い続けてほしい。
「それではまた付き合っていただきます…」とDTソングコーナーに戻ってしまい、せっかくの感動ボルテージがまた急降下してしまう…と再びゲンナリしていると、「この曲は高校3年生のときに作った曲で、歌詞は相変わらず意味が分からないのですがメロディは気に入っていて、SAKEROCKの『MUDA』に入っている曲の中に一部分使いました。」というMC。え、それはもしかして、と思って始まったのは『ここに来る』という曲。高校1、2年のときの「あちゃー」感がなく、明らかに成長している。そしてこのミドルテンポでダイナミックなメロディは…やっぱり『Goodbye My Son』!昨年末にSAKEROCKがTFMの「RADIO DRAGON」という番組のコーナーに出演した際に「『Goodbye My Son』は高校生のときに作った曲が元になっている」という発言をしていたのですが、その曲まで聴けてしまうとは。ちなみに『Goodbye My Son』のCメロ…というのだろうか?後半部分に出てくるメロディがこの曲のサビで「今までの時間は もう何も覚えてない」と歌われていた。やたら「ジュースを飲んでいる」が繰り返されたり、今ではほとんど使用していない「君」や「僕」という人称を使った歌詞は若さ溢れるけど、「ここに来る」というタイトルのセンスが今に通ずるし、聴いているとドラム、ベース、トロンボーンが頭の中で同時再生。歌詞が気に入らないのなら多少改変してでも次の音源に収録して欲しい!


というわけで、ゲストが登場した後篇に続く