「Loser's Parade」

for さえない日々

シングル「夢の外へ」考察〜歌詞が変わらなかったり変わったり

歌詞というのは、曲として「聞く」ことと、詩として「読む」ことでは受け取り方に違いが出ると思います。初めて『夢の外へ』を聴いたときは、ド直球の明るいポップソングだ!と思っていました。日焼け止めのCMソングだから「外」とか「光」などが歌われているんだなぁと。
歌詞カードでじっくり読むと、これは自身のスタンスのことを歌っているのだと感じました。例えば『くだらないの中に』のときに途中に挟み込まれた「僕は時代のものじゃなくて あなたのものになりたいんだ」という歌詞に、「流行歌のように大量消費されることなく、リスナー一人ひとりの心に残る曲を作って行きたい」という決意、そして「「星野の歌だ」じゃなくて、「自分の歌だ」って思ってもらいたい」という思いが込められていたことと同じで、今回の「僕は真ん中をゆく」というフレーズや「いつか遠い人や国の空 想い届けばいいな」などは、現在の自身のスタンスや願いが込められているのではないかと思ったのです。
おそらく印象的なフレーズであろう、「自分だけ見えるものと 大勢で見る世界の どちらが嘘か選べばいい」からの「君はどちらをゆく 僕は真ん中をゆく」。これは『日常』での歌詞「みんなが嫌うものが好きでも それでもいいのよ みんなが好きなものが好きでも それでもいいのよ」で訴えていることと同じ。
この曲では「自分だけ見えるものと 大勢で見る世界」と歌われていて、テーマに沿って解釈すると「夢と現実」「虚構と現実」となりますが、もうちょっと解釈すると「極私的と流行的」「個人的と大衆的」「パーソナルとポピュラー」という対比のようにも聞こえてきます。個人的な歌でありながらも大衆化していきたい、たくさんの人に認識されながらも決して消費されることない者になりたいという思いが詰まっているのではないでしょうか。「いつか遠い人や国の空 想い届けばいいな」なんてのは、まさにそのまんま。だから、歌詞の根本は変わらない。


あと、物語が進むごとに歌詞が徐々に変化していく過程が面白い。「夢の外へ連れてって」という歌詞は「ドアの外」「意味の外」と変わっていき、最後には「夢の外へ連れ出して」と歌詞が変化するとともに、視点が「連れてってほしいと望むモノ」から「連れ出すモノ」へと変化して終結する。「この世は光 映してるだけ」が「この世は光 映す鏡だ」、「この世は光 映すだけ」への変化していくのも面白い。これは曲中で歌詞が微妙に変わっていく、物語としての面白さ。


さて、このシングルが発売された後、7/10の自身のラジオ「RADIPEDIA」にて、この曲の歌詞について自ら解説するコーナーが設けられました。そこで語られた中で私が興味深かったことについてこれから挙げさせていただきます。それは、2つの外的要因。

「ゆめにっき」

夢日記は開けたままで」という歌詞が登場しますが、その言葉はゲーム「ゆめにっき」にインスパイアされたそうです。
この「ゆめにっき」というゲーム、「RPGツクール」で制作された個人が無料で配布しているフリーゲームなのですが、その不思議な世界観にいまだ根強い人気を持っているそうです。このゲーム、公式サイトの説明を引用すると、

  • とても暗い雰囲気の、夢の中(という設定)の世界を歩き回るゲームです。
  • 特にストーリーや目的はありません。歩き回るだけのゲームです。

と書かれています。そのとおり、目的がないゲームで、ストーリはプレイヤーの解釈によるところが大きいようです。ざっと概要を説明すると、主人公はマンションの一室に住んでいる女の子。しかし外に出ようとすると無言で首を振ってしまう。それが出られないのか出たくないのかはわからないが、ベッドに横たわる眠りにつき、夢の世界に。プレイヤーはこのキャラクターを動かして夢の世界を徘徊する、という感じ。
このゲーム、まったく知らなかったのでこれを機にちょっと調べてみたのですが…「鬱ゲーム」「トラウマになる」「オカルト系」と評されるくらいになんとも奇妙な内容でした。画面が若干不気味で、ちょっと抵抗があるのですが、それを「だけど、なんだかこのゲームをしているとホッとする」と評している星野リーダー。「このゲームに出てくる女の子を、夢の中から外へ出してあげたかったんです」と話していて、それが歌詞の世界にインスパイアされているのだとわかります。
「ゆめにっき」、オカルト系が苦手な自分ですが、試しにちょっとダウンロードしてみようかと思います、気分が乗れば…。

寺坂直毅

もう一つの外的要因は、放送作家の寺坂直毅。現在星野リーダーが担当しているラジオ「RADIPEDIA」の構成作家の一員であり、紅白マニア、デパートマニアなどの一面も持つ方。先日公開された「夢の外へ」特設サイトに対談が掲載されていて、そこでも今回の曲と寺坂さんの関わりについて話題が挙がっています。
http://www.hoshinogen.com/yumenosoto/
きっかけとなったのは、寺坂さんが放った「童貞は30過ぎると魔法使いになれる」という一言。これは昨年末に開催されたライブ「星野源の別エピソード「部屋(友達編)」」にて、共演した清水ミチコと共に司会者として登場した寺坂さんが実際に話していたのを生で聞きました。これは要するに、夢の中だったら好きな女の人を自由自在に呼び出して抱くことができるという特殊機能で、それを聞いた星野リーダーは「それなら寺坂さんの夢の中にいる女性を外に連れ出したい」と考えたことが曲作りのきっかけになったという。
それにしても、上記の特別対談、ものすごく読み応えがあるしいろいろ思うところもあるので、是非ともみなさんに読んでもらいたい。


星野リーダーの揺るがない思い、そこに外部要因が組み合わさって今回の名曲が誕生したのではないかと思います。

星野源『夢の外へ』の歌詞


ちなみにこれは井上陽水with高田漣の『夢の中へ』。漣さん、夢の外へも中へもいけるんですね。